元のスレッド
スクールランブルIF11
- 1 名前:ゾリンヴァ :04/07/19 21:34 ID:uRupIwYc
- 週刊少年マガジンとマガジンSPECIALで連載中の「スクールランブル」は
毎週10ページの週刊少年漫画です。
物足りない、もっとキャラのサイドストーリー・ショートストーリーが見たい人もいる事でしょう。
また、こんな隠されたストーリーがあっても良いのでは?
有り得そうな展開を考察して、こんな話思いついたんだけど…といった方もいるはずです。
このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。
【要はスクールランブルSSスレッドです】
SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。
≪執拗な荒らし行為厳禁です≫≪荒らしはスルーしてください。削除依頼を通しやすくするためです≫
≪他の漫画のキャラを出すSSは認められていません≫
SS保管庫
http://www13.ocn.ne.jp/~reason/
【過去スレ】
スクールランブルIF10【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1088764346/
スクールランブルIF09【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087097681/
スクールランブルIf08【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1084117367/
スクールランブルIf07【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1082299496/
スクールランブルIf06【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1078844925/
スクールランブルIf05【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1076661969/
スクールランブルIf04【脳内補完】(スレスト)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1076127601/
- 2 名前:ゾリンヴァ :04/07/19 21:35 ID:uRupIwYc
- 関連スレ(21歳未満立ち入り禁止)
【スクラン】スクランスレ@エロパロ板3【限定!】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082689480/l50
【荒らし行為について】
“完全放置”でよろしくお願いします ネタばれも当然不可です
■ 削除ガイドライン
http://www.2ch.net/guide/adv.html#saku_guide
- 3 名前:Classical名無しさん :04/07/19 21:37 ID:jrv0mCSw
- 乙一。
- 4 名前:Classical名無しさん :04/07/19 21:39 ID:RopKxP9E
- ここの板って一定のレス数がついてないとdat落ちとかってある?
あるのなら、誰か作品書き込んでくれるといいかもだ。
(戸田風)
- 5 名前:Classical名無しさん :04/07/19 21:39 ID:Fxxuq7bM
- 乙カレリン
- 6 名前:Classical名無しさん :04/07/19 21:54 ID:fab4xAPk
- >>1
乙
>>4
クラウンは全然落ちないから安心。
- 7 名前:ゾリンヴァ :04/07/19 21:58 ID:uRupIwYc
- 申し訳ない…保管庫のURLこっちでした。一応↓に
http://master-sunohara.hp.infoseek.co.jp/index.html
- 8 名前:Classical名無しさん :04/07/19 23:00 ID:BHUs28vo
- 乙カレリン
- 9 名前:Classical名無しさん :04/07/19 23:36 ID:Z7G2D5ZE
- >>1
乙
- 10 名前:Classical名無しさん :04/07/19 23:58 ID:YA6.c9tw
- >>1
乙
- 11 名前:Classical名無しさん :04/07/20 01:00 ID:vefvvOdM
- >>1
乙
このスレでも良きSSと職人に出会えますよう
- 12 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:29 ID:Y8vyDweI
- ほんじゃま、一番槍で、本編の展開まったく無視したおにぎりSS投下させて
もらいます。
- 13 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:34 ID:Y8vyDweI
- 「あ……」
一人の男が視界に入り、塚本八雲は歩みを止めた。
がっしりとした長身、サングラス、最近トレンドマークになりつつあるベレー帽。無く子も黙る
矢上高校の魔王、播磨拳児。しかし、ベンチにしょんぼりと座って地面を見つめているその姿から
は、魔王の威厳を感じることは出来なかった。
「……播磨……さん?」
話し掛けて良いものかどうかためらわれたが、八雲は思い切って声をかけてみた。
一瞬わずらわしそうに眉間に皺を寄せた播磨であったが、すぐに声の主の正体に気付き、一変して
柔和な顔になる。
「おお、妹さんか。どうした?」
「いえ、用事があるわけではないんですけど……」
元気が無いように見えて心配だったから。という事がなかなか言えず、もじもじしていると、唐突
に播磨が声をあげた。
「おっ!」
「……!?」
播磨は、不意打ちに驚いて少し後ずさった八雲に近づくと、その手に二枚の紙片を握らせた。
「?」
そっと拳を開いてみると、それは水族館の入場チケットだった。
「いやな、知り合いがくれたんだけどよ、一緒に行くつもりだった奴が用事があるみたいでな、先
行公開だから、日程もずらせねえし、どうしようか迷ってたところなんだ。金髪の友達と一緒に行
きな」
「これ…くれるんですか?」
「おお、妹さんにゃ日頃お世話になってるからな、こんくれーはしねーとな。」
そんじゃな。そう言い残すと、播磨は八雲に背を向けて、ゆっくりと歩いていった。
一人取り残された八雲は、先ほどまで播磨が座っていたベンチに腰をかけると、手元に残った二枚
のチケットををしげしげと眺めた。チケットには、「ぷちうみ」と大きく印刷されており、その横
で蝶ネクタイを締めたペンギンが手をふっていた。
「今度の日曜日か……」
しばらく考え込んだ後、ポケットから携帯を取り出し。友人であるサラにコールする。程なくして
聞きなれた声が耳に飛び込んできた。
- 14 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:37 ID:Y8vyDweI
- どうしたの?八雲」
「あの……今度の日曜日、一緒に水族館にいかない?」
「え、水族館って今度新しく出来たぷちうみ?」
「うん、播磨さんが特別招待券を二枚くれたから、一緒にどうかなって思って……」
「うーん、ごめん」
受話器から聞こえてきたサラの言葉に、八雲の顔は暗くなった。
「……そうなんだ」
「ホントにごめんねー」
「ううん」
「けど八雲なら一緒に言ってくれる人すぐ見つかると思うよ」
「そう……かな」
「もちろん!」
それじゃあと挨拶を交わし、通話を切ると、八雲は大きな溜息を一つついた。
「どうしよう……。」
サラはああいってくれたが、はっきり行って、サラ以外に二人で一緒に遊びに行ってくれるような
人は思いつかない。
「姉さんも今度の日曜は烏丸さんとプロレス観戦に行くって言ってたし……」
頼みの綱である姉の線も消え、孤独感に打ちひしがれながら八雲はとぼとぼと、家に続く道を歩
いていった。
「一緒に言ってくれる人、一緒に言ってくれる人……」
しばらくして、唐突に八雲の脳裏に花井の顔が浮かんだ。必死に頭を振って花井のイメージを払い
飛ばす。
「悪い人じゃないんだけど……」
花井が一緒ではゆっくり魚を眺めることなど出来ないだろう。
再び溜息をつき、右手に握った二枚のチケットに視線を落とす。ふとタキシードを着たペンギン
と目が合ったような気がした。
「見たかったな……ペンギンさん」
播磨の動物たちがいる動物園には、ペンギンやラッコなどはいない。八雲はまだ、テレビでしかペ
ンギンを見たことが無かった。
- 15 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:41 ID:Y8vyDweI
- 八雲は、暗く沈んだ気分を少しでも払拭しようとお気に入りのガムのCMを思い出した。父親ペン
ギンを見ながらペンギンの母子がおしゃべりを……。
「あ」
おしゃべり、そうおしゃべりだ。なぜ早く気付かなかったのだろう。数少ない面識のある人物で
、動物のことに詳しく、それどころか話まで出来てしまう!そんな人。一緒に水族館に行くのにこ
れ以上うってつけの人間はいないではないか。八雲の脳裏には、播磨を通して、ペンギンやラッコ
、オットセイなどと話をしている自分の姿が浮かぶ。
先ほどまでとは一変して、顔を輝かせながら、八雲は播磨にメールを送った。
ところが、一分、二分、五分。いくら待ってもメールは帰って来ない。そうこうしているうちに
家にたどり着いてしまった。部屋に上がり、私服に着替える。メールは来ない。夕食の準備を始め
る。炊事の合間にちらちらとちらちらと携帯を見るが、全く変化は無い。結局。食卓の上で料理が
湯気を上げる頃になっても、播磨からの返信は無かった。
「どうしたの?八雲」
八雲の様子を心配した天満が声をかける。
「……なんでもない」
「そうは見えないけど……困ったことがあたらちゃんとお姉ちゃんに言うんだよ?」
「……うん、姉さん」
天満の励ましに幾分元気を取り戻し、食事に箸をつける。たわいないコメディー番組が終わり。CM
が流れ出す。それは八雲の好きな、ガムのCMだった。
箸を休め、八雲はCMに見入った。三十秒ほどのCMはすぐに終わり、変わりに眉間に皺を寄せたニ
ュースキャスターが映し出された。
「……」
視線をテレビの画面からそらし、もう一度溜息をつこうとしたとき、唐突に携帯がメールの着信を
知らせた。
八雲の反応は迅速だった。箸を置き、膝元においていた携帯の液晶画面を凝視する。
「俺は暇だけど、俺で良いのか?」
八雲はコクコクとうなずきながら播磨に返信した。胸をなでおろしながら再び食卓に向かうと、腕
を組んだ姉が満足そうにうなずいていた。
- 16 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:42 ID:Y8vyDweI
- 「姉さん?」
「いやいや、お姉ちゃん安心したよ。そういうことだったんだね。」
「そういうことって、どういう……」
「まあまあ、八雲も恥ずかしいだろうし、詳しくは聞かないよ」
「姉さん、多分それは違……」
八雲の言葉も聞こえていないらしく、天満はなにやら一人で悦に入っているようだった。姉の誤
解を解くことはあきらめ、八雲は食事を再開した。
それからの数日間、八雲は楽しみで、それでいてじれったい、そんな至福の時を過ごすことにな
った。
当日の日曜日、天気は生憎の雨模様となったが、ぷちうみの周囲は家族連れやカップル等でにぎ
わっていた。
「播磨さん、どこかな……」
八雲はきょろきょろと周囲を見渡したが、播磨の姿は見当たらない。人ごみと雨のせいで視界はお
世辞にもいいとは言えず、この中から播磨を見つけ出すことは不可能なように思われた。携帯にメ
ールを送ってみるが反応は無い。八雲はだんだん心細くなってきた。その時、八雲の耳に聞き覚え
のあるバイクのエンジン音が飛び込んできた。
「あ」
播磨拳児、その人であった。
急いでバイクのほうへと駆け寄る。
「おう! 妹さんすまねえ、少し遅れちまった」
「いえ、私も今着たばかりですから」
「そうか、んじゃいくか」
「はい」
窓口でチケットを渡し、手の甲にスタンプを押してもらう。
「なんだこりゃ?」
「特殊な塗料です。今日一日は出入りは自由。手を洗っても落ちませんからご安心ください」
いぶかしむ播磨に受付嬢がマニュアルどうりの笑顔で応対する。
「ふーん」
納得したのかしていないのか微妙な返事を返しながら、播磨は角度を変えながら自分の手の甲をし
げしげと見つめた。
- 17 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:45 ID:Y8vyDweI
- 「あの……播磨さん、早く行きませんか?」
播磨がゲートで立ち止まっているせいで、ただでさえ混雑している入り口付近は、けが人が出て
もおかしくない状況に陥っていた。播磨と八雲でなければ、後ろから文句の一つでも飛んできたこ
とだろう。
「まあまあ、そんなに急がなくても魚は逃げやしねーよ」
そんな状況に気付くことも無く、播磨は鼻歌交じりで館内へと進んでいく。慌てて八雲もその背中
を追った。
「ここは……」
最初は、淡水魚のコーナーだった。
「岩魚に鮎……やけに食欲をそそるコーナーだな」
「そ、そうですか?けどほら、うろこがキラキラ光って綺麗ですよ?」
「そうだな」
たわいも無い会話を続けながら回廊を進んでいく。様々な色形の魚を眺めながらゆっくりと脚を踏
み出してゆく。ゆったりとした時間が流れていった。
ふと播磨が立ち止まる。
「変なカッコの魚がいるな」
「太刀魚……ですね」
「マジで立ってんな、おい」
刀のような形をした魚たちは、水底に尾を、水面に頭を向けて、スポットライトを浴びて銀色の光
を放ちながら、ゆらゆらと体を揺らめかせていた。
「……レストランで食わせてくれんのかな?」
「それは、ちょっと無理だと思いますけど……」
「けどさっきのクラゲといい、こうやって見ると綺麗なもんだな」
「……そうですね。」
八雲はうっとりと水槽の中の魚たちを眺める。
「そろそろ次行くか」
「はい」
しばらくお互いに無言で水槽を眺めながら歩いていたが、やがて八雲が播磨におずおずと話し掛け
た。
- 18 名前:Classical名無しさん :04/07/20 03:48 ID:Y8vyDweI
- 「あの、播磨さん」
「ん?」
「播磨さん、お魚たちとも話せるんですか?」
「んー、考えてることは解るんだけど、こっちの、呼びかけには反応鈍いなー。あんまたいした事
考えてるわけでもなさそうだし」
「そうなんですか……」
「マイペースなかんじかなー、芸を教えたりは出来なさそー……でもないみてえだな……」
二人の進行方向には、人垣が出来ており、その上には、『イシダイの大吾くんショー』と描かれ
た大きな看板が下がっていた。
「マジか……」
「こ、これって凄いことなんじゃないでしょうか……?」
「いったい何やるんだ?」
興味津々で人垣を掻き分けながら水槽に近づいていく。ステージ上の水槽の中には、一匹のイシダ
イと、かごを持った熊のような生き物の人形が入っていた。
「さー大吾くん、はりきっていってみよー!」
子供向け番組のようなノリの司会が手を振り上げると、人形のもつバスケットから紐のようなも
のがでて来る。それを見たイシダイは人形に近づくと、紐の先端を突っつき出した。
「これのどこが芸だって言うんだ?」
胸元で腕を組んだ播磨があきれたようにぼやく。
「待ってください、ほら!」
紐の先端を加えた大吾くんは、ゆっくりとバックしていく、やがて、もう一方にくくりつけられ
ていた箱がかごから飛び出した。その箱にも同様に紐がついており、大吾くんは再び紐をひっぱり
はじめた。
「うーん」
播磨は、箱から出てきた餌をうれしそうにつっつく大吾くんを見つめながら、複雑そうな面持ち
で首をかしげた。
「あんまパッとしねーよなー」
「けどやっぱり凄いことだと思いますけど……」
「そりゃまあ……な。それにしても広いなーここ、一体今どこら辺なんだ?」
そう言って播磨は八雲が広げたガイドマップを覗き込んだ。
- 19 名前:Classical名無しさん :04/07/20 04:18 ID:UYzYZwYg
- こんな時間だけど、支援ー
- 20 名前:Classical名無しさん :04/07/20 05:07 ID:6xG/JldU
- 生殺し?
- 21 名前:Classical名無しさん :04/07/20 05:59 ID:m.jpTm1Q
- アレ、続きがねえ
- 22 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:02 ID:Y8vyDweI
- すみません、気がついたら寝てました。
- 23 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:04 ID:Y8vyDweI
- 「えーと、今はこの辺りですね」
「ようやく半分か、いいかげん脚が疲れてきたぜ」
大げさに溜息をつく播磨を見て、八雲の頬がかすかに緩む。
「そうですね、すぐ先に自販機コーナーがありますからそこで少し休みましょうか」
「賛成」
プシュッ
小気味良い音を立てて炭酸が噴出す。のどを走る心地よい刺激を感じながら、播磨は目の前の巨大
水槽を見上げた。
「八メートルの水槽か……。結構圧迫感あるな」
自販機コーナーの正面に据えられた水槽の中では、様々な色形の魚が勝手気ままに泳ぎまわってい
たが、中でも目に付くのは、大型のエイと、サメであった。
「少し、怖いです……」
八雲はおびえたように、後ずさった。
そんな八雲の様子を見て、播磨はサメに向かって手を振る。八雲には、その時サメがこちらを見た
ように思えた。
「へへっ」
不意に播磨の笑い声が聞こえる。
「どうしたんですか?」
不思議そうに尋ねる八雲に向き直ると、播磨はへらへらと笑いながら親指で水槽の中を悠々と泳ぐ
サメを指差した。
「いやな、こいつが言うに、餌は十分もらえるから何不自由しないんだが、栄養を取りすぎてしま
って運動するのが大変だ。だってよ。可笑しいだろ?」
そう言って笑う播磨の顔をしばらく見つめ、もう一度水槽の中のサメを見つめる。サメの顔は、
先ほどとはうって変わって、愛嬌があるように思えた。
「そうですね」
そう言って目を細める八雲の顔を見て、播磨は満足げにうなずく。
「……どうかしましたか?」
「いや、妹さんが楽しんでくれてるみたいだから、良かったなと思って」
- 24 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:11 ID:vefvvOdM
- 支援?
寝るなよー
- 25 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:19 ID:Y8vyDweI
- 「……はい、すごく、楽しいです」
「まあ、このくらいじゃ、日頃の恩は返せねえけどな」
「いえ、そんな……恩だなんて」
「いや、マジ助かってる。妹さんぐらいなもんなんだよな、気を許して話できるの……
フルフルと首を横に揺らす八雲に言葉を投げかける播磨の表情は、心無しか疲れて見えた。
「さて!次行くか」
何かをふり払うように体をゆすり、播磨は水槽から離れた。
「はい」
八雲はもう一度水槽を振り返り、サメに向かって小さく手を振った後、少し離れた場所で待つ播磨
の元へと駆けていった。
「ん、なんだぁ?」
二人の眼前に広がる陸地つきの大きな水槽、ペンギンたちが快適に暮らせる様にと作られたもの
で、岩や岸壁はまるで作り物とは思えないようなできばえであり、まるで本当に南極にいるような
感覚を覚えてしまう。しかし、それらの精巧さも、動くもののいない水槽の空虚さを際立たせるだ
けであった。
「まだ入ってねえのかな?」
八雲の返答を期待しての一言だったが、隣からは何の反応も返ってこない。そのまま二人は何を見
るでもなく、ぼんやりと空の水槽を眺め続けた。
(あー……)
余りにも静かな隣の雰囲気に、いやな予感を覚えつつ、播磨はちらりと、八雲の様子を盗み見た。
日頃は余り感情を表に出すことのない八雲の顔は、珍しく、はっきりと彼女の心情を物語ってい
た。
しかしそれは、悲しみ、と呼ばれる類のものだったが……。
慌てて視線を正面に戻し、播磨は心の中で頭を抱えた。
(あー、どうしよう。妹さんペンギン見るのすっげー楽しみにしてたもんなー)
何とか自然に場の雰囲気を変えることは出来ないだろうか、そんなことを考えながら、播磨は、話
題の材料を探すべく、己の五感を研ぎ澄ませた。
- 26 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:21 ID:Y8vyDweI
- (ん?)
その甲斐あってか、播磨は周囲の違和感を感じ取った。通路を見渡してみるが、先ほどまで、あれ
だけたくさんいた他の客が、ほとんどいなくなっていた。
「こりゃあ……」
先に状況を理解したのは八雲の方だった。おもむろに一枚のポスターを指差す。
「ん」
八雲の指先を目で追う播磨であったが、ポスターを確認する前に思い切り服のすそを引っ張られ、
体勢を崩してしまった。
「ちょ、ちょっと! 妹さん!?」
とりあえず、引っ張られるままに走ってついていくが、播磨にはまったく状況がつかめていない。
「ショーだったんです」
八雲のその言葉を合図にしたように、遠くから歓声が聞こえて来た。それを聞いて八雲は更に加速
する。
いくつかの曲がり角を曲がり、階段を駆け上り、ドアを開ける。その途端、係員のアナウンスと、
子供たちの甲高い歓声が二人の耳に飛び込んできた。
「さー、ペンギンのベン君たちの行進です、みんなー、手を振ってあげて下さいねー」
「わー、こっちこっちー!」
「ベンベーン!」
ペンギン達の、行進コースのふちに群がった子供たちは、大声でペンギンたちに声をかけたり、ペ
ンギンに触ろうとして必死に手を伸ばしたりしていた。そんな子供たちに向けて、ペンギンたちは
ヒラヒラと手を振って答える。
「うわぁ……」
その光景を見て八雲は、感嘆の声を漏らした。しばらくは満足げにペンギンと子供達の様子を眺め
ていたが、そのうち、そわそわしだした。
「どうした?妹さん……」
不思議に思った播磨が尋ねると、八雲は顔を真っ赤にして顔を横に振った。
「な、何でもありません」
そうは言ったものの、やはり八雲は、落ち着かない様子だった。
その様子を播磨は首をひねって考えていたが、満足のいく答えを思いつき、ポンと手を打った。
「妹さんもペンギンに触ってみたいってか?」
- 27 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:22 ID:Y8vyDweI
- 播磨の問いかけに、八雲はビクリと肩を震わせ、少し時間を置いて、恥ずかしそうにコクリとう
なずいた。
「けど、本当はいけないことだろうし、子供達の楽しみを邪魔するわけにも行かないし……」
「まあな……」
うなずきながらも、播磨は何か考えているようだったが、そのうち八雲に向けて満面の笑みを向け
るて
ペンギン達のほうへと向き直った。
「?」
八雲は首をかしげて播磨の横顔をしばらく見上げていたが、視線に気がついた播磨に促され、ペン
ギン達に視線をもどし、そして大きく息を呑んだ。
なんと、ペンギン達がこちらを向いて手を振っているではないか!
「……っ!?」
八雲は驚きながらも、ペンギン達に挨拶を返した。
「あ、あの、播磨さんが頼んでくれたんですか?」
「ああ、これくらいなら大丈夫だろ?」
おずおずと尋ねる八雲に播磨は得意満面の笑顔で返した。
「ありがとうございます」と播磨に頭を下げ、再びペンギン達に視線を戻す、とその時、八雲は観
客達達の注目を一身に集めている事に気がついた。
「わー、きれいな娘ー」
「お、かわいい子、くっそー、あのごっついやつの彼女かぁー?」
「結構こいつらも面食いなんだな」
周囲から言葉と思念が次々と飛び込んでくる。
子供達にいたっては、ペンギン達と一緒に無邪気にこちらを向いて手を振っていた。
結局八雲は播磨を引っ張ってあたふたと会場を後にした。
「あーなんだ、もしかして余計なことしちまったかな……」
肩で息を整える八雲に、播磨はすまなそうに頭をかきながら頭を下げた。
「あ、いえそんな…… すごく嬉しかったです」
「そ、そうか?」
八雲の言葉を聞いて、播磨は安心したように胸を撫で下ろした。
「いや、そういってもらえると助かるぜ、それじゃあ、続きを回るか、今なら空いてるし。」
「はい」
- 28 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:24 ID:Y8vyDweI
- 二人は再び、水の回廊を進み始めた。人の指くらい軽く噛み千切れそうな怪獣のような風貌の亀
、海草や葉っぱと見分けがつかない忍者のような魚、変り種ではのそのそと海底をひれを使って歩
きまわるひょうきんな顔をした魚、etc、etc……。それらの全てが八雲に新鮮な驚きと喜びを与え
てくれた。
売店にもいった、ゆったりとしたスペースのお土産売り場は、かわいらしい海のキャラクター達
のグッズであふれかえっており、ファンシーショップも顔負けといった様子であった。八雲は自分
と姉のために、おそろいのタキシードを着たペンギンのストラップを、播磨は眠たげな目をした海
亀のストラップを買った。
本当に楽しいひと時だった。しかし、楽しい時にもつらい時にもいつか終わりが訪れる。今、八
雲の目の前には、出口のゲートが立ちはだかっていた。
「あ……」
八雲は呆然としたように、大きなゲートを見上げていた。
「おー、ようやく出口か、広かったなー、ここ……ん、どうした? 妹さん」
「なんだか、少し、残念です……。」
「まあ、また来ればイーじゃねーか。まあ今度は、金髪の子ととか、あとなんだ、そのー、あれだ
姉さん、塚本のやつも一緒にだな……」
後半なぜかしどろもどろになる播磨、心なしか頭身も少し低く見える。
「そうですね、今度はみんなも一緒に……それじゃあ出ましょうか、播磨さん」
「ん?おっおう!」
外は、湿気のせいで少し蒸し暑かった。
「いやあ、喜んでくれたみたいでよかったぜ」
愛車にまたがりながら、播磨は八雲に話しかけた。
「はい、すごく楽しかったです。なんていうか……!?なっなんでもないです!」
八雲は何かを言いかけたが、あわてて頬を紅に染めて俯いた。
「なんだ?そこで止められちゃあ気になってしょうがねえぜ」
「は、はいその……播磨さんみたいな、兄さんがいたら良かったなあって思って……ごっごめんな
さい、変な事いって!」
慌てて八雲は播磨に向かって頭を下げた。
「いっ、いやあ、おっ俺も妹さんみたいな義妹がほしいっていうか、なってもらいたいというか、
あはははは!」
- 29 名前:Classical名無しさん :04/07/20 07:25 ID:Y8vyDweI
- 八雲の言葉に答える播磨の顔も、サルのように真っ赤になっていた。
しばし二人の間に気まずい沈黙が流れたが、播磨はそれを振りはらうように、八雲に声をかけた。
「よし、送るぜ、のんな」
そこまでしてもらうのは悪いと断る八雲を急かして後ろに乗せると、播磨は愛車を発進させた。
風が二人を包み込む、日頃見慣れたはずの風景も、普段とはまったく違う、新鮮なものに感じら
れた。
「……」
八雲はしばらく無言で流れていく景色を眺めていたが、視線を眼前の播磨の大きな背中に移した。
(今度は、播磨さんと、姉さんの三人でどこかに行きたいな……)
目をつぶり、三人で楽しく話している光景を思い浮かべながら、八雲は革ジャンに頬をそっと押し
つけた。
-了-
- 30 名前:書いた人 :04/07/20 07:28 ID:Y8vyDweI
- 途中でいったん投稿を中断してしまい、すみませんでした。
このSSですが、違和感無く積極的な八雲が書きたくて、水族館という舞台を
考えました。けどちょっと八雲が活発的過ぎるかな?
- 31 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:11 ID:jCJ2GJLk
- お疲れさま〜
途中で寝るってよっぽど眠かったんですね。
今日は祝日なのでゆっくりベットで寝なおしてください。
八雲SSはいっぱいありますけど
こういうほのぼのとしたのはいいですね。
グッジョブです。
ガキのときに水族館でペンギンに噛まれたのを思い出したよ。
あれは痛かった、今でもペンギン好きだが。
- 32 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:39 ID:6ztCdbEY
- 新スレたておつかれさまです。
……えーと、前スレでは自分の短慮のせいでスレの雰囲気が悪くなってしまうような
配慮に欠けた発言をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
そのことの反省を踏まえ原作を読み直し、一度書いていたものを大幅に手直しした結果、
やたら長くなってしまいました。説明的な文章が多くなってしまいましたし……
もう少し手短にまとめられれば良いんですけど、今の自分の力量ではこれが限界です。
登場人物の人物像や性格について、まだ自分の偏見があり気に入らないという方もおられると
思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
前スレの『嘘つきは○○の始まり?』の続編で、『My Gift to You』です
(前回は日本語で今回は英語のタイトルですが気にしないで下さい)
前作とはちょいと雰囲気が違います
- 33 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:40 ID:6ztCdbEY
- お昼前の授業中、教師の声とチョークの音が響き渡る中、集中しきれず窓の外へと視線を向ける―――外は
時折晴れ間を覗かせたりするはっきりしない曇り空。それを見て、
「はぁ〜………」
と、胸の中に溜まったもやもやを全部吐き出すかのように、深いため息をついた。しかし、吐き出せたと思
ってもまた同じ事を繰り返し考え、もやもやが溜まるの繰り返しだ。
……ホント、どうかしてる……
そう思いながら、もやもやの原因の方を見てみると――――イビキかいて幸せそうに寝てやがる―――
………ヒトの気も知らないで………
――ミシ――
何かがかすかにきしむ様な音を聞いた気がした――――
あの日――嘘の恋人同士を演じた日――から二週間近く経った。その間暇さえあれば、それとなく播磨を観察
してきた。播磨がどんなやつか知り、あの時のお礼をするために。
しかし、その成果はというとさっぱりだった。あたしが見ている時はたいてい居眠りをしている。そうじゃな
い時でも、特に誰かと親しくするわけでもなく自分の席に座っているだけで、特に変わりは無い…サングラスの
せいでどこを見ているのかわからないが……
気になった事はといえば、携帯を片手にメールを打っている姿を度々目撃した事だった。あたしもアドレスを
交換したからあいつの携帯に登録されているだろうけど、あの日以降あたしにあいつからメールが届いた事は一
度としてない。比較的親しく見える花井や今鳥達も知らないようだったから、誰にでも教えているという事では
ないだろう。吉田……だったかな? まーいいや、あの男にしたって一見すると親しくしてそうに見えてるが、
ただ播磨の舎弟を気取りまとわり付いているだけで、播磨は特別な友人として見ているわけではないだろう。
……そうなると一体誰にメールをしてるんだ? それにメールを打ってるのを見かけた日はいつの間にか姿を
消しているのはどういう事だ?……まさか誰かと待ち合わせ?…男? それとも……お…女………?
――ビキッ――
- 34 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:41 ID:6ztCdbEY
- 「……こと……美琴!」
ハッと顔を上げると沢近が焦ったような顔をしてあたしを見ていた。その後ろには、驚いている塚本とほんの
少し眉を顰めている高野の姿があった。
「何やってんのよ、一体!?」
「え……な、何がだ?」
「何が…って、自分の手を見てみなさいよ!」
そう言われて手を見ると持っていたシャーペンが見事に潰れていた。……そういやさっき何かの音がしてたが
これの音か………
「あ…こ、これは何でもねーよ、怪我もしてねーし。……ただ、ちょっと考え事してて無意識に手に力を込めて
しまってたみたいだ………」
「………気をつけなさいよね、全く!」
沢近は一瞬ほっとしたような顔をすると、顔を背けて怒った様にそう言った。……頬が赤くなってやがる……
「…悪かったな、心配かけて……」
「なっ、そ…そんなんじゃないわよっ!」
そう言うとさらに頬を染めて反論してきた。塚本や高野もそんな沢近を見て、表情をほころばせている。
「まあまあ……落ち着いて、愛理」
「そうだよ愛理ちゃん、早くお弁当食べようよ」
今更ながらに気づいたが、授業はとっくに終わっていたようだ。おそらく号令を省略して教師はさっさと出て
行ったのだろう。おかげでシャーペンを潰した場面は近くに来ていたこいつ等にしか知られていないようだ。
……助かった……皆に気づかれてたら、どんな目で見られていたか………
「なにまたボケッとしてるの?さっさと昼食にするわよ!」
口調とは裏腹に心配そうに見ている沢近にこれ以上心配させないよう、弁当を取り出した―――
- 35 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:41 ID:6ztCdbEY
- 「……ところで……」
先に弁当を食べ終えてお茶を飲みながら、高野が世間話でもするように尋ねてきた。
「美琴さんは何を一体何を考え込んでいたの……?」
「ん、ああ…どんなお礼が男に喜んでもらえるかな………って!」
余計なこと考え込んでしまわないようにと、食べる事に意識を向けていたあたしは高野の策略にまんまとはまり
口を滑らせてしまった―――
慌てて周りを見ると、目を丸くして固まっている沢近と塚本……そして、かすかに―その実すごく楽しそうに―
微笑んでいる高野が目に入った。
「今のは違「誰? 誰? 誰にお礼するの!? 花井君? ……わかった! 今鳥君でしょう!!」……」
ごまかそうとしたあたしの声は硬直から解けた塚本の息をもつかせぬ質問攻めに遮られた。
……何か…勝手に結論づけて、うん、うんと頷きながら自己完結しちゃってるし………
「いや、だからそうじゃな「なに、なに? 美コちんがオレにお礼してくれんの!? 金がかかるような物が欲しい
なんて贅沢言わないよオレ、ただその胸を―『ゴッ』―……」違うって!!」
ハァーハァー……いきなりわいて出て来やがって………しかも恥ずかしくなるような事言おうとしやがって!
三人の方へ向き直ると、高野は無表情のままお茶を飲み、塚本は自分の推理が外れた事に残念そうにこっちを見
て、沢近は……少し不機嫌そうにこっちをじっと見ていた。
「……どういう事か説明してもらえる?…美琴……」
そう聞いてくる沢近から少し目を逸らしながら答えた。
「……親戚の男にこの間世話になってさ、まだろくにお礼もできてないだけだって………」
――チクリと胸が痛む――
……沢近が不機嫌そうなのは親友のはずの自分にどうして一言も相談してくれないのかと不満に思っているから
に違いない……。そうとわかっていても沢近にはとても本当の事は言えない………手を取り見つめ合っていた二人
の姿が脳裏に浮かんでくるから…………
―――ズキリと胸の痛みが増した気がした―――
- 36 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:43 ID:6ztCdbEY
- 「……話は変わるけどよー……」
まだ訝しげにこちらを見る沢近の視線から逃れるため、少々強引だが話題を変えることにした。
「今更なんだが、沢近…お前、昼休みになると当然のように播磨の席に座ってるけど、その間播磨のやつはどこで、
何をしてるんだ?」
「…そういえばそうだよねー? どこ行っちゃったのかなー播磨君」
「…ちょっと…美琴も天満もやめてよね、食事中にあいつの話するの。食欲無くなっちゃうじゃない」
何気なく振っただけの話題なのに沢近はすごく嫌そうな顔をしている。
…本気で嫌がってるよな? あの後結局何も無かったってことかな?……
「……播磨君なら外の水飲み場にいると思う、月末になるとお金無くてお昼抜きみたい」
「ちょっと、晶まであいつの話しないでよ!」
あたしの方を意味ありげに見ながら高野はそう言ってきた。
…くっ、そういえばあれから何も言ってこないから忘れてたけど、高野にはしっかりと目撃されてるんだった…
……まてよ、今、高野はなんて言った? 月末は昼飯抜きとか言ってたよな? …どうしてそんな事を知ってるの
かは疑問だが、使えるよなそれ? お礼だと言って弁当を渡してやれば案外喜んでくれるんじゃねーか?……
「何がおかしいのよ美琴!」
嫌がっている自分の様子を見て笑っているとでも勘違いしたのか、詰め寄って来る沢近をなだめながら、どんな
献立にするか自分のレパートリーを思い浮かべていた―――
- 37 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:44 ID:6ztCdbEY
- ―――――今朝はいつもよりも早く起きて台所に立った。下準備は昨夜のうちに終えてあるため、時間はあまり
かからない予定だったが、自然と目が覚めてしまったのだ。
いつもより早起きしてきたあたしを両親は訝しげに見ていたが、二つの弁当箱―自分用のと、真新しく、あたし
のよりも一回り大きい弁当箱―を取り出し、下準備しておいた食材―いつもより手が込んでいる―を調理しだした
あたしを見ると、お袋は、がんばりなさい、と言い微笑んで肩に手を置き、親父は終始不機嫌そうにむっつりと黙
り込んでいた。
なんとなく居心地の悪さを感じ、早めに家を出たあたしは鞄の中の弁当箱を手探りで確認し、朝日を浴びながら
胸を躍らせて学校へと歩き出した―――――
時計の針が昼休みの時間に近づくにつれ、授業の内容は全く頭に入らず、別の考えが頭の中を占領している。
…好き嫌いはあるだろうか?……今日に限って弁当持ってきてるだろうか?……なによりも、あたしの味付けは
播磨の口に合うだろうか?………
―――キーンコーンカーンコーン……―――
チャイムの音に思考を切り替え、号令に合わせお辞儀をして、はやる胸を押さえながら播磨の方に目をやった。
播磨は既に教室を出て行こうとしているところだった。どこで渡すか考えていなかったあたしは、ちょうどいいと
考え沢近達に先に食べているようにと伝え、鞄をしっかりと抱えて播磨の後を追いかけた――――
- 38 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:44 ID:6ztCdbEY
- ……おかしい……水飲み場に行くんじゃないのか? この上は……屋上か……?
てっきり外に行くんだと思ってたあたしは、予想外の展開に少々混乱しながら屋上への扉の前でたたずんでいた。
……ま、今日みたいに風の強い日に屋上で飯食う奴はいないだろう。……なら、問題ないよな。どうせ暇つぶし
に、屋上で寝るつもりだろうし………
そう考えて、弁当を鞄から取り出し、腕に抱えながら屋上への扉を開けた―――――
―――――目の前の光景に言葉を失い、頭の中が数瞬真っ白になる。思考が戻ってくるに従い、あたしの思考は
混乱の渦へと飲み込まれて行く―――――
あれ……塚本の妹だよな……? 何度も会ってるんだし、花井の奴がいつも騒いでるから忘れるはずが無い……。
……だとしたらなんで播磨とここにいるんだ? 誰もいない屋上で二人っきりで……。………二人きり?……っ!!
……ああ……なんだ……バカだなあたしは………年頃の男女が人目の無い場所で二人きりなんて……答えはひとつ
しかないじゃないか!!
「……周防…?」
「……周防…先…輩?」
二人があたしに気付きこっちを見ている……
……きれいな娘だよな…気立てはいいし家事上手だって評判だし……、花井や他の男どもが夢中になるのも理解
できるよ………播磨だって……、っ!!
塚本の妹があたしの腕の所を見ているのに気付き、慌てて手に持っていた物を背後へと隠した。
「…周防…なんで「いや、あの…は、播磨に用事があって追いかけて来たんだけど…やっぱりいいや! たいした
ことじゃないし……ハ、ハハハ…ハ……」……」
……乾いた笑いしか出て来ない……
「……邪魔して…悪かったな……」
二人の視線が突き刺さってくるかのように感じられて、身を翻し、駆け出した――――
――――「……周防…?……周防…!!」――――
- 39 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:46 ID:6ztCdbEY
-
―――キーンコーンカーンコーン……―――
「……あ…授業始まっちまった………」
そうわかっていても動こうという気になれなかった。
……あいつ等心配してんだろうな……
と、いつもの三人の顔が浮かんできた―――いつも冷静で無表情なくせに、よく人をからっかったり、なぜか普
通は知らない秘密を知っていたりと謎な部分が多いが、友情に厚い晶――勘違いやおせっかいが酷くて手がかかる
が、嘘をつくのが下手で、いつも一生懸命な塚本――プライドが高く弱みを見せるのが嫌で、他人の前では猫をか
ぶり、人当たりのいい完璧な人間を演じているが、人一倍寂しがりな沢近―――
そんな三人の心配そうな顔も、申し訳なさを感じさせるだけで、動こうという力を与えてはくれなかった。
二人―播磨と塚本の妹―の姿を目撃した時に感じた気持ちは、神津先輩に彼女がいたと知った時の気持ちに似て
いたが、あの時とは決定的に違う。あの時は辛かったが、自分の気持ちを隠して平気なフリを装えた。しかし、今
は違う――いつまで経っても落ち着かない。わずかでも油断すればドス黒い何かが体を突き破って出てきてしまい
そうだった。
………今は誰にも会いたくない。会えば八つ当たりだとわかっていても、きっと酷いことを言ってしまう………
このまま一人でいれば、そんな事をしないで済む………
「……やっと見つけた…たく、こんな所に居やがったのか?」
信じられないという思いとともに、驚いてその声の主を見た。播磨はこっちの様子などお構い無しに、「よっ」
と片手を挙げながら近づいて来て、隣に腰を下ろした。
……な…何で播磨がここに? え…だって…塚本の妹と……あ、もう授業中か……。…ん? やっと見つけた…
て言ったよな……? それって………
気が付くとあれだけ胸の中で暴れ狂っていたドス黒い感情は、驚きのあまりきれいさっぱり無くなっていた。そ
の代わりに戸惑いとともに、なんだかとても暖かい感情が満ちてくるのがわかった―――
「…な、何で播磨がここにいんだよっ!?」
そんな胸の内を悟られないよう、つい大声で怒鳴ってしまった。
- 40 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:47 ID:6ztCdbEY
- 「…ち、うるせーなー。俺に用があるって言ってたのは周防…てめーだろうが」
耳を押さえて不機嫌そうにそう言うと眉を顰めあたしの方を向いた。
「…だ…だって、たいしたことじゃないって……」
「たいしたことじゃなくても用事は用事だろうが……。で、何なんだ用事って? さっさと済ませようぜ」
「え……あ……それは…その………」
そう言いよどんで、視線をさ迷わせていると――
……グ〜〜〜ッ………
と、この場に似つかわしくない音が鳴り響いた。播磨の方を見ると、顔を赤くして決まり悪げに横を向いていた。
そんな播磨がかわいく見えてつい声を上げて笑ってしまった。
「…し…仕方ねーだろーが、ひ、昼飯食ってねーんだから!」
むきになってそう言う播磨をなだめながら弁当を差し出した。呆気に取られ、固まっている播磨にごうを煮やし、
無理矢理手に押し付けるように持たせた。
「……俺に? いいのか?」
「ああ、用事っていうのはこれの事だ……。以前、礼をするって言っただろう? 月末は昼飯抜きだって話を聞い
てな…これなら喜んでもらえるんじゃないかと思って……」
播磨はしばらく無言でこっちを見ていたが、おもむろに弁当を開け食べ始めた。
「……うまいか?」
「ん…ああ、うまいぞ。なんつーか、お袋の味っていうのか? 安心して食える」
「………」
…………バカやろう…そんな恥ずかしいセリフ、さらっと言いやがって………
- 41 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:48 ID:6ztCdbEY
- 弁当を食べる播磨を横目でちらちらと見ていると、その頬に殴られたような痣があることに気付いた。
「…っ! どうしたんだその痣!?」
「…え?……あ! こ、これはなんでもねーよ!」
ごまかそうとする播磨の肩に手を置き、じっと見つめる。あたしが引かないと悟ったのかため息をついて話し始
めた。
「……周防を追い駆けてたらよ、花井のやつを見かけたんでどこに行ったか尋ねたら『周防に何をした!』って殴
りかかって来てよ……。あ、花井のこと攻めんなよな? やられた分はやり返しておいたし…勘違いとはいえお前
の事心配してただけなんだから……」
……そういや、走ってる途中で誰かに呼ばれた気がするな……
「す……周防?」
戸惑いの声を無視して頬の痣に手を当てて、そのままじっと播磨を見つめる。そして―――
―――キーンコーンカーンコーン……―――
……え! あ、あたし何しようとしてたんだ?…痣の状態を確かめようとして…そして……
チャイムの音に正気に返り自分が何をしようとしていたか思い出し、慌てて立ち上がった。
「じゃあ、先に教室戻るから! 弁当箱は放課後にでも返してくれ。……それと、見た所痣はたいしたこと無さそ
うだけど保健室行ってちゃんと手当てしてもらえよ?」
「あ…ああ、そうだな、そうするよ。自分じゃどうなってるか見えねーし。」
見つめていたことは痣の状態を確かめるためだけだと誤魔化せたらしい事に、安堵と…わずかな失望を感じて、
教室へと歩き出した。
―――ちなみに、教室に戻ったあたしは早とちりで播磨を殴ったことについて花井に説教をした。花井は申し訳
なさそうにうなだれていたが、最後に心配してくれた事の礼を言うと、信じられないものでも見たように目を丸く
していた。
そんな花井に笑いかけてから、授業をサボった言い訳を考えながら三人の方へと向き直った―――
- 42 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:49 ID:6ztCdbEY
- …………あ、あった……あ〜あ、皺になっちまってる…………
家に帰ったあたしは、タンスをひっくり返すようにして一枚のハンカチを探し出し、笑みを浮かべた。そして、
それを見ながら、高野の言葉を思い出した―――
―――三人に具合が悪くて保健室に言っていったと言い訳し、席に着こうとすると高野が近づいてきた。
「……美琴さん、私にも立場があるからあなた一人に協力するようなまねはできない…。けれど、あなたのこと
応援してる……後悔だけはしないでね」
そう言って自分の席へと戻っていった―――
最初は何を言っているのかわからず戸惑ったが、すぐに理解した。今まではお礼のためということで誤魔化し
ていた内に芽生えた想いが何なのかを知ってしまったのだから―――
――思えば既に兆候はあったのだ。あの日播磨に抱きしめられたあたしは、腕を緩めてくれと言った、離して
くれとは言わずに。あの腕の中で感じたのは安心感であり、離れた時にわずかに感じたのは喪失感だった。その
事と今日あった事を考えれば、いくら色恋沙汰に鈍いあたしでもわかるというものだ。
高野の言葉からすると、ライバルが何人かいるのだろう。結局、塚本の妹と何故屋上にいたのかは謎のままだ。
沢近だって実際の所どう思ってるのかはわからない。播磨が押し倒したというのは勘違いだったが、あの保険医
の態度は他の生徒に対する場合以上の親しさを感じさせる――なにより、肝心の播磨が誰を好きなのかわかった
もんじゃない。
そこまで考えてため息が漏れた。
………大変そーだけど仕方ないかな? 好きになっちまったんだし…。…神津先輩ん時みたいに何もしないで
終わらせたら後悔しそうだし…やれるだけやってみるか!
そう結論付けると勢いをつけて立ち上がった。
―――――播磨に返すための新しいハンカチを買いに行くために―――――
―――了―――
- 43 名前:Classical名無しさん :04/07/20 08:50 ID:6ztCdbEY
- 書き終わっての感想は――女の視点は難しい――です。
播磨視点あっさり終わってしまいそうなんで美琴にしたんですが…失敗でした。こんなに難しいとは…
もっと修行が必要だと実感させられました。今度何かのSSを書くことがあればですが、もっといい作品が
かければと思います。拙作かと思いますが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
補足として――ひとつ目としましてお礼についてはおにぎり物で散々既出のお弁当にしました。
…だって…播磨って天満以外は基本的を重要視してなさそうだから、喜びそうなものって言ったって
他に思いつかないんだもん……
ふたつ目としては、晶の人物像で『友情に厚い』としましたが、ブックレットにあったように播磨の
動物のためにキリンの気ぐるみを着て協力したことや、あるサイトで調べた所誕生日の1月29日の花は
コブシ、花言葉は『友情』とあったので、それを参考にしました。
みっつ目として、気付く人は気付いて、気付かない人は気付かない事ですが、前作の書き間違いを
利用した箇所があります。いやー、偶然って怖いですね? おかげで心情を表現するのに役立ちました。
まあ、自分でそう思ってるだけなんで、自己満足に過ぎませんが…
- 44 名前:Classical名無しさん :04/07/20 09:24 ID:H6nAMYN6
- 朝から乙です。感想が上手く言えませんが楽しめました。
- 45 名前:Classical名無しさん :04/07/20 09:36 ID:VfqtWB2I
- 美琴が播磨に惹かれていく様がよかったです。乙でした
- 46 名前:Classical名無しさん :04/07/20 10:09 ID:U4s5vt76
- 乙です。楽しく読めました。
前回の分も含めてしっかりストーリーになっていました。
元ネタがほとんどないので鉛筆SSは難しいとは思いますが続きを期待します。
- 47 名前:Classical名無しさん :04/07/20 10:10 ID:U4s5vt76
- あう。ageてしまった。
- 48 名前:Classical名無しさん :04/07/20 10:33 ID:A/lRrdwQ
- >>43
GJ!
鉛筆SS堪能させて頂きました。
美琴の心理描写の節々に巧いな、と感じさせられる部分がありました。
沢近のことを気にする所とか。
これからも頑張って下さいね。
- 49 名前:空振り派 :04/07/20 12:09 ID:duQnH7E6
- >>1さん、スレ立て乙でした。
投稿者の方も続々増えてますね。
今回は他のスレでもちょくちょく出てた播磨漂流〜沢近家へ現本編からの派生SSです。
コミック派の方には何が何やらでしょうが。
まぁ、これだけ書いても作者は外してくるからある意味安心して書けるというかw
では、いきます。
- 50 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:09 ID:duQnH7E6
- 「……時化が来るぜ」
鬼哭丸の船長が告げると船内は緊張感に包まれた。
一般の船員は船室に閉じこもり、船長の勘と腕を信じて祈るほか無い。
船はまるで天地がひっくり返ったかのように重力を失い、上下左右の区別もおぼつかない。
播磨は写真を見つめている。
「天満ちゃん、最後にもう一度会いたかった……」
が、横から大谷が素早く写真を奪い取った。
「たかが時化くらいでビクビクしやがって!」
「こんな写真、海に捨ててきてやるぜ。ヒャッハー!」
船室から飛び出す大谷、怒りに我を忘れ追う播磨。
前方にはまさに船を飲み込まんかとする巨大な波が押し寄せる。
そしてバランスを失った船上は勢いよく傾き、大谷は船から投げ出された!
――その時、超人的な力を発揮する播磨。
傾いた船体をものともせず一直線に大谷目掛けて飛びついた。
空中戦さながらに大谷をつかみ、船上へと投げ戻す。
しかし、写真はすでに大谷の手を離れて海に飲み込まれようとしていた。
播磨は叫んだ。
「天満ちゃーーん!」
写真を追って身を投じる播磨は海の藻屑へと消え去った――。
九死に一生を得た大谷は自分のしたことを後悔した。
「なぜ自分の身を犠牲にしてまで俺のことを……」
船長がポンと大谷の肩に手を置いた。
「仲間のために自分の身を犠牲にする。アイツこそ真の海の男だ……」
鬼哭丸は無事に時化を乗り切り、海には何事も無かったかのように平穏が戻った。
仲間の命を救った英雄を惜しみ懸命の捜索がおこなわれたが、ついに播磨の姿が見つかる
ことは無かった――。
- 51 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:10 ID:duQnH7E6
- 一方、とある巨大な貿易船――。
いかにも上流階級と思わしき英国紳士のもとに一つの知らせが届いた。
「ミスター。輸送中の船で東洋人とおぼしき男を救助しました」
「身元は一切不明なのですが、ただ一枚写真を握り締めていまして……」
「その写真にあなたのご自慢のお嬢様が映っていました」
ぴくりと眉を動かす英国紳士。
「なんだって!? 娘の知り合いならばほっとくわけにもいかん」
「とりあえず本宅へ運んでくれ」
そして、その男はある広大な邸へと運びこまれた。
「う……。ここはどこだ?」
巨大なベッド。高い天井。見慣れない風景に意識は混乱する。
「気がついたようね」
ベッドの横に座っていた女性が落ち着いた声で話しかけてきた。
「あんたは?」
その女性は黒い髪が美しく、とても若いようにも見える。
「私はこの邸の主の妻です」
「一つお伺いしてもよろしいかしら。貴方は愛理とどういうご関係?」
愛理……。必死に思い出そうとするが頭痛が強まるだけだった。
「そういえば俺は確か海に投げ出されて……。ここは日本か?」
「ここはイギリスです」
「イギリス? っていうと確か日本の裏側の? ……なんてこった!」
とりあえず自分がどういう状況にあるかは飲み込めたらしい。
「助けてくれてありがとよ。礼を言うぜ」
「俺の名前は……。だ、誰だっけ?」
「どうやら記憶喪失みたいね」
傍らの女性は残念そうな顔をしていた――。
- 52 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:11 ID:duQnH7E6
- 「今度、一緒に食事にでも行かないか? 個人的に君に興味があってね」
この家の主人は英国人らしい。奥さんが日本人のために話しが通じて助かった。
別段断る理由もないので、この夫婦とともに食事へ行くこととなったのだが……。
道すがら東洋人が珍しいのか、しきりに女性が播磨に声をかけてきた。
もちろん言葉が通じないため、何を言っているのかさっぱりわからない。
「君は随分とモテるようだな」
と主人が嬉しそうに話しかけてくるが、全く興味が持てなかった。
「俺には心に決めた人がいる。それ以外の女は眼中にねぇ」
それが誰かは未だ思い出せないのだが……。
「ほぅ。意外と一途なのだな。男はそのほうが良い」
着いたのはいかにも高級といった感じのレストラン。出される食事はどれも見たこと
の無いものばかりだった。貸してもらったタキシードもひどく自分に不釣合いな気がして
落ち着かない。
夫婦はしきりに娘の話しをしていた。それが本当に自分の知っている人間かどうかは
まだ思い出せなかったが、話しを聞く限りではそんなに悪い娘ではないようだ。
(俺が心に決めていたのはこの夫婦の娘さんなんだろうか?)
記憶が戻らないもどかしさにだんだん苛立ちを覚える。
そんなとき、いかにもチンピラ風といった男が――。
- 53 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:13 ID:duQnH7E6
- 何を言っているのかはさっぱり解らないが友好的でないことは明らかだった。
後ろを振り向くといつの間にか周りにはナイフを持った連中が取り囲んでいて、奥さん
はその一人に捕らえられている。
傍から見ると極めて絶望的な状況だが何故か恐怖よりも先に怒りが湧き上がってきた。
次の瞬間――。
「ハリケーンキック!」
まずは奥さんを捕らえていた男の顔面に一蹴。男は成す術もなく崩れ落ちた。
一味は圧倒的優位な位置に立っていると思っていたため、何が起こったかわからず
動きを止めている。
「ハリケーンドラゴン!!」
間髪入れずに残りの者を一発ずつ倒していく。一瞬にして悪党どもは蹴散らされた。
夫婦は感嘆の声を上げた――。
「何て勇敢な青年なんだ! 君にならわが娘を任せられる」
「さあ、娘も待ってるわ。一緒に日本へ帰りましょう」
どうやら興奮しているらしい。かなり重大なことを言っている気がするのだが。
そして日本へ――。
- 54 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:13 ID:duQnH7E6
- 「ただいま、エリ。お前に相応しい男を連れて帰ったぞ」
久しぶりに会った父はとても嬉しそうな顔をしている。
「お父様が気に入るなんて、珍しいわね」
「でもいろいろあって、今はそんな気分じゃないの」
愛理は暗い顔をしていた。いろいろあった……らしい。
それでも父の連れて来た男をちらりと覗き見る。
「あら、なかなかイイ男じゃない。……でもどっかで見たような気がするのよね」
しげしげと男を眺める愛理。
がっしりとした体格、髪はぴんと伸びていて意志の強さをあらわしており、
目は凛々として純粋な瞳をしていた。確かにかなりの男前だ。
「海で遭難していたところを救助したのだが、どうやら記憶喪失らしくてね」
「へー。大変ね。うちのクラスにも失踪した男が一人いるけど……」
「それと彼は悪党から私たちの身を守ってくれたんだ」
父は嬉々として、そのときの様子を語り出した。
「ハリケーンなんとかって叫んで まるで忍者みたいだったよ」
技の名前を叫んでから技を出すバカがどこに――。と思ったがふとある考えが頭を
よぎった。――ハリケン? ハッと気付き中村に命令する。
「中村、サングラス。すぐに持ってきて」
「かしこまりました」
中村から手渡されたサングラスを少し背伸びをして、その男にかける。
「お、おぃ。何すんだよ」
男は突然のこの行動に思わず身構えた。
「やっぱり……。ハ、播磨君――」
- 55 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:14 ID:duQnH7E6
- 「ほう。やはり知り合いだったのか」
父はニヤリとしている。
「救助したときにたった一つだけ身に付けていた写真にお前が映っていたらしい」
「え!? 私の写真を?」
愛理は急に恥ずかしくなって顔を真っ赤に染めた。
「それに向こうの女性の誘いを全て断って、好きな人が居ると言っていたので、
もしや……と思ったのだが」
「そっ、そんなんじゃないわ。ただのクラスメイトよ」
父の追及を遮るためにあわてて否定する。
「ともかく記憶が戻るまでは預かってくれ」
返事も聞かずに父はまたすぐに出かけて行った。
再度、播磨を見つめる愛理。
「確かに播磨君のようだけど、いまいち迫力にかけるわね」
といってもいつも突っかかっていくのは愛理の方からだったのだが……。
「実は記憶を無くしてるフリをしてるんじゃないでしょうね?」
「そんな器用なことができるかってんだ」
播磨の口調だけは昔と変わっていない。
「わかったわ。でも絶対、私の部屋には入らないこと。いい?」
「おぅ」
記憶喪失のためか妙に素直なので拍子抜けしてしまう愛理だった。
(いつもならここで「頼まれたって誰が覗くか!」とか言うはずなのに……)
その夜、愛理は播磨の部屋を訪れた――。
- 56 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:14 ID:duQnH7E6
- 「播磨君。本当に私のこと覚えてないの?」
「あぁ。だがさっき自分の名前を知ってから、少しずつ記憶が戻ってきたみてぇだ」
よみがえった記憶をたどりながら、ことの経緯を説明する播磨。
「俺には好きな女がいて、ふられたと思ったショックで日本を去った」
「それから時化にあって海に放り出され、奇跡的にご主人さんの船に救助されたんだ」
「だが自分の名前はおろか、好きな女のことも覚えてねぇ……」
「今さら、俺にどうやって生きてけってんだ?」
記憶を失ったショックは思った以上に重いらしい。
「落ち込まないで……。私がいるから……」
播磨の調子がいつもと違うためか、愛理も初めて素直に口に出すことができた。
「……元気付けてくれてありがとな」
だが、だんだんと播磨の脳裏にある衝撃的な映像が浮かび上がってきた――。
「そういえば確か以前に告白をした記憶が……」
「うっ……。頭が割れるようだ。その後が何故か思い出せねぇ」
「む、無理して思い出すことは無いのよ」
愛理はあわてて播磨の頭を抱きかかえた。
(この記憶とこの流れ、間違いない俺の好きな女は目の前にいる……)
播磨は愛理の手をつかんだ。
「聞いてくれ。俺は今度こそ逃げずに言う。これは本気だ!」
「全て思い出したんだ」
「俺の最愛の女――。そう、君の名は……」
いつに無い真剣な表情で真っ直ぐに見つめる播磨。
薄暗い寝室に視線の絡み合う二人。
播磨の告白――。期待に愛理の胸の鼓動は高鳴る。
- 57 名前:THE MAJESTIC :04/07/20 12:15 ID:duQnH7E6
- 一瞬が永遠にも思えた……。
緊張と清寂が部屋を包み、とうとう放たれたその言葉は……。
「塚本……」
その瞬間、愛理渾身のブーメランフック炸裂――。
播磨の脳を激しく揺さぶった!
「いっ――てぇな。何すんだよ。お嬢!」
「あれ? 俺、なんでこんなところにいるんだ?」
「ふんっ。記憶が戻って良かったわね」
そこにはいつもの不満そうな愛理の顔があった……。
- 58 名前:空振り派 :04/07/20 12:15 ID:duQnH7E6
- 完了です。
やっぱりやってしまった……。オチが付かないと気がすまないので。
さすがに愛理を目前にして塚本は無いだろうと言う方がいると思うので一応
補足説明しておくと播磨は苗字の部分を塚本天満と混乱して塚本愛理と言おう
としたわけで。記憶喪失の設定なのであまり深くは気にしないでください。
- 59 名前:Classical名無しさん :04/07/20 14:09 ID:qojWfj5U
- なんかちょっと展開が早すぎる気がしますが乙カレー。
どんなに予想してもどうせ外れるんだよな。
いままでまともに読めたのってジャージくらいだし、それも半信半疑だったもんな〜。
- 60 名前:Classical名無しさん :04/07/20 14:12 ID:F2FwXm5Q
- 「」切り過ぎじゃ無いですか?話は面白いです。
漫画に出来そう。
- 61 名前:Classical名無しさん :04/07/20 16:25 ID:1RtSXaXk
- >>58
話の展開にアクセントが無くて淡々としている気がします。
あと描写が足りない&展開早すぎ。
つーか、最初読んだとき「嘘バレキター??」なんて思ってしまった。
絵に起こしたら面白くなるかもね。
- 62 名前:Classical名無しさん :04/07/20 17:40 ID:Dx3aBgqg
- >>43
GJ!
特に美琴の両親の反応が秀逸。こういう反応するんだろうなと想像できる。
>>58
旗はやはりいいッス。
ただ沢近の両親は、もう少し落ち着いた感じじゃないかと……
少なくとも腕っ節で娘婿に見初めるような考え方はしないのでは……
戯言です。すみません。
- 63 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:27 ID:ThGz/uOQ
- 初投稿させていただきます
文章力はないので一つのネタとして楽しんでいただけると幸いです
- 64 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:28 ID:ThGz/uOQ
- 家の主は静かにグラスを傾ける。
――いつもと変わらない。私はいつも通り。
誰に言うでも無く呟く。ただ一人の部屋で。
明かりを点けない部屋でテレビの光が瞬き雑音が通り過ぎる。
彼女は空になったグラスに機械的にビールを注ぐ。
ふと窓に目を向けるといやに月の光が眩しい。
――この部屋はこんなに静かだっただろうか……
彼女の同居人が消えてから3日後の夜、また刑部絃子はグラスを呷った。
- 65 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:30 ID:ThGz/uOQ
- 「……ところで拳児君。塚本君とはどこまで進んだのだね?」
「ぐほっ!? ゴホゴホ……てめぇ! 人が飯喰ってる時にいきなり何言いやがる!」
「いやね、2年生になってめでたく君のだーい好きな塚本君と同じクラスになって
すぐにでもアタックかけると思っていたら何の進展もなく2学期が終わろうとしている
君の行動力の無さが心配でな」
「ぐっ……こ、こうゆうのはタイミングが大事なんだよ! ほっとけ!」
いつもの会話。いつも通り絃子が拳児をからかう。そんな他愛の無い会話……のはずだった。
「まったく、君がそんな調子じゃ私も男を連れて来る事もできやしないな」
「!!……」
「私は結構もてるのだぞ。言い寄る男は沢山いるが、君のような不良が一緒に住んでると
バレたら何を言われるかわかったもんじゃない。私が売れ残る前に付合うなりフラレるなり
事を進めて欲しいものだ」
「……そうかよ……」
この後も散々絃子はからかったがその後の拳児はただ俯き、あぁそうな。と返事をするだけで
からかい甲斐がなくなりその日の会話は終了した。
次の日、拳児は学校をサボった。たいして気にすることも無く絃子が学校から帰ると
テーブルの上にメモと封筒が置かれていた。
――今まで世話になった。荷物はもうしばらく置かせてもらうが何なら捨てて貰ってもかまわねぇ。
迷惑掛けたな――
メモには簡素にそれだけ書かれ、封筒には今月の家賃より少し多めの金が入れられていた。
あわてて廊下に戻り拳児の部屋の梱包された荷物を見た時、絃子は何かが割れる音が聞こえた気がした。
- 66 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:31 ID:ThGz/uOQ
- ――大丈夫だ。彼は今まで何度か失踪したが必ず最後には私の下に帰ってきた。
今度もすぐに帰ってくる……
初めはそう思った。思おうとした。
今までの失踪は突然消えて突然戻ってきた。しかし今回の消え方はもう戻ってこない意思がある。
……書置きまで残しいつもは催促しなければ払おうとしない家賃まで残して。
――私の言ったことにウソはない。彼が来てからはうるさいし外に出るのも気を遣った。
部屋は狭くなるし、客を呼ぶこともできない。そう、彼が来てからのメリットと言えば
家賃もろもろの折半で多少経済的ゆとりができたことと……
少し、ほんの少しだけ今より……たのしかったことだけ……
5日目、月を見ながら飲む。今日も彼、播磨拳児は帰ってこなかった。
会えない訳ではではない。彼はちゃんと学校に来ていた。
しかし授業で会う時、彼女と彼との距離は手を伸ばせば届くとこに居ながら
深い谷が2人の間にある気がした。
声を掛けることも目を合わすことも無く、淡々と日々は過ぎた。
- 67 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:32 ID:ThGz/uOQ
- 「刑部先生。刑部先生ってば」
職員室で声を掛けてきたのは彼女の同僚であり親友でもある笹倉葉子。
「刑部先生、どうしたんですか?なんか最近顔色悪いですよ」
「なんでもないよ。ただ最近晩酌が長くてね。二日酔い気味なだけだ」
葉子と絃子の関係は短いものではない。絃子が自分と同じくらい酒に強いことは知っている。
そして彼女がいつもと違うと言う事も。
「……悩み事ならいつでも聴きますよ」
「本当になんでもない。ほっておいてくれ。そのうち治る」
それは自分に言い聞かせてるようでもあった。
「……そうですか……でもそんな顔してたんじゃ生徒にまで心配掛けますよ。
そうだ。姉ヶ崎先生に何か薬でも貰って来たらどうです?」
「そんなに酷い顔してるかい?」
そりゃもう、とコクコク頷きこんな感じと絵にまで描いてくれた。
その絵の顔は確かに酷かった。とても人間には見えないくらい……って人間じゃない。
「……こりゃ相当酷いな。言われた通り薬でも貰って今日はゆっくり寝るよ」
「そうしてください。私だってこんな刑部先生描きたくないんですから」
「……すまないな。そうとう心配掛けたみたいだね」
絃子は席を立ちながらドアの方に向かいながら……ありがとう。葉子。と呟く。
絃子の後ろ姿を見ながら葉子はニッコリ微笑んで見送った。
- 68 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:32 ID:ThGz/uOQ
- 保健室で姉ヶ崎に二日酔いの薬を貰い早々に出て行こうとした絃子だったが
「少しお話しませんか?」と呼び止められた。
絃子としてはあまり保健室に長居したくなかった。彼が来る心配があったのだ。
それに絃子は彼女をどうも好きになれなかった。
「なんですか?あまり気分が良くないので仕事をサッサと終わらせて帰りたいのですが」
少々棘のある言い方だったが姉ヶ崎は意に介した様子も無く
「あら、それならベッドで寝ていって貰って構いませんよ。もう放課後ですから生徒も来ませんし」
ニッコリと返された。なかば強引にベッドに寝かされ絃子の顔をニコニコ見ている。
「刑部先生ってやっぱりキレイですね。あ、キレイと言うかカッコイイって感じかも」
「……それは褒められてると取っていいのかな?」
「もちろん!」
「……貴女もキレイだよ。男が皆振り向く位ね」
「あら、冗談でも嬉しいです」
あははと笑った後、少しして
「でも私って好きになった男には振り向いて貰えないんですよね……」
「…………」
少しの沈黙。部屋の空気が重くなった。
「私って彼の事をほんの少し解かっただけで、彼の事全部理解した気になってたんでしょうね……
でも気付いた時にはもう遅くて、彼はもう私の事見向きもしなくなってた」
――私も……あいつの事を解かっていたつもりだったのかな……
「……それで私彼にフラレた後ヤケになって見ず知らずの男の子を部屋に呼んだんです。
その子もフラレたらしくてなんか慰め合うには……傷を舐め合うにはピッタリだと思ったんですよね。
だけど彼全くそうゆうことしなかった。彼とは何もなかったけど彼がただ居てくれたお陰で
立ち直るのが随分早くなったと思います。自分より年下でしたけど彼は私の恩人ですね」
――恩人か……私の彼もただ居てくれるだけで安らぐことができた気がする……
- 69 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:33 ID:ThGz/uOQ
- 「その後彼とは?」
「……好きな子を諦めきれなくて出てっちゃいました。だけど彼この間戻ってきてくれて……」
彼女はとても嬉しそうに言った。
「羨ましいな。私の彼も戻ってきてくれるといいんだけどな……」
「……大丈夫ですよ。きっと戻ってきてくれます」
――ただ薬貰うだけだったはずなのに……なんかこの人葉子に似てるな。
ふとそんなことを思った。胸に溜まっていた靄が晴れたような気がした。
「少し寝かせて貰うよ。思っていた以上に疲れが溜まっていたらしい」
「はい。お休みなさい」
「……ありがとう」
「いえいえ」
姉ヶ崎は微笑みながらカーテンを閉めた。
- 70 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:34 ID:ThGz/uOQ
- 夢を見た。それは少し前のできごと。
初恋の人が死んだ時の夢。彼は憧れでありヒーロー。彼のあとにどこでも付いて行った。
彼のやることなら何でもマネをした。彼には息子が2人居た。
息子達にとっても彼はヒーローだった。彼は奥さんを亡くしていた。
でも私が時機に母になる。息子達も私の家族になる。彼らと私はとても仲がよかった。
しかし彼は唐突に死んだ。泣いた。泣きじゃくった。息子達も泣いていた。
いや、一人だけ泣いていなかった。その子はもう両親と呼べる者が居なくなったのに泣かなかった。
その子は歯を食い縛り拳を握り締め涙を堪えていた。彼は父親の教えを守っていた。
――俺が死んだらお前が大黒柱だ。涙なんか見せずしっかり家を守れ――
息子達は私のとこに来ることになった。しかし彼だけは家を離れなかった。
俺が家を守るんだと言ってきかなかった。やがて彼はやって来る敵を倒すことになった。
そうしなければ守れなかった。親戚からの援助も断り続けただひたすらに来る者を拒んだ。
その内彼は親戚からも疎まれるようになった。父の教えを愚直に守りすぎたのだ。
私はその後教師の道を選んだ。もしかしたら、いや確実に彼の影響だろう。
彼のような者に手を差し伸べたかった。
引越しの準備をしている時突然彼はやってきた。
『絃子、おめぇ高校の教師になるんだろ? 一緒に住ませてくれねぇか?』
口の利き方も知らないバカガキがそこに居た。父親の面影を携えて――
- 71 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:36 ID:ThGz/uOQ
- 「……からもう少し厄介になるわ。すまねぇお姉さん」
「いいのよ、むしろ嬉しいくらい。ハリオがよければいつまでもいてくれていいんだからね」
――姉ヶ崎先生が誰かと話ししているらしいな。ちょっと眠りすぎたか。しかしこの声……
「ところでハリオ。今晩のオカズ何がいい? 久しぶりに肉ジャガなんてどう?」
「うーん、お姉さんの料理は何でも上手いからなぁ。作りたいものでいいっすよ」
「あら嬉しい」
「しかし迷惑ばっか掛けてすんません。この前もお世話になったのに。
従姉妹の奴が急に色気付いちまったもんで泊まるとこなくなっちまって突然またお邪魔しちまって」
…………
「もう、気にしないで良いのに。その従姉妹さんの為なんだし
それにハリオの漫画も楽しみだから私は全然OKよ」
えへへと笑い合う2人の声をカーテンを開ける音が掻き消した。
途中バギンと音がしたのは気のせいだろう。
……もちろんカーテンレールが取れかかっているのも気のせいだ。
- 72 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:39 ID:ThGz/uOQ
- 「あら、刑部先生顔色がスッカリ良くなりましたね」
「おかげさまで……」
絃子は姉ヶ崎に軽く会釈すると、ユックリと笑顔で播磨の方を向いた。
とたんに播磨の顔が引きつる。
「拳児君。君は私に迷惑を掛けない代わりに他人に迷惑を掛けることを承知で出て行ったのかね?」
「ば、な、なにを!?」
「えっと、出て行った?」
「えぇ。彼は私の従兄弟でね。保護者代わりに面倒みているのですよ。
あ、これは他言無用でお願いします。何かと問題ありますので」
「おめぇ、なにすんなりバラしてんだですか……」
播磨の言葉も絃子の眼光が向けられたとたん消え失せた。
「そういえばさっき面白い事を言っていたね。誰かが色気付いたとかなんとか……」
「は?だってそう言ったじゃねえか。付き合ってる奴がいるとかなんと……イテッ! イテテテッ!!
耳を引っ張んな!」
「そんなことは一言も言ってない! そんな勘違いで他人に迷惑を掛けるな! 今すぐ帰るぞ。
君は私が保護者として君の恋が成立するまでずっと面倒を見てやる」
播磨の耳を引っ張りながらキョトンとしている姉ヶ崎向かって
「本当にこのバカがご迷惑をお掛けしました。今後このようなことが無いようにしっかり監視しますので」
「……え、ええ。でも私は別に……」
「いえ。もう2度と姉ヶ崎先生にはご迷惑をお掛けしません。家族で解決しますので」
それだけ言うと播磨を引きずりつつ保健室を出て行った。
- 73 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:40 ID:ThGz/uOQ
- 「恋が成立するまで……家族で解決……か。ハリオって母性本能擽るタイプなのかしら。
手ごわいライバルがいっぱい居るわねぇ」
2人の出て行ったドアを見つめながら姉ヶ崎はクスクスと笑った。
「くそー、絃子の奴結局家まで耳引っ張ってきやがった。誰かに見られたらどうすんだよ……
んで私は疲れたから寝る。部屋の片付けしとくようにだと!
寝てたじゃねぇかよ……しかも……これを俺だけで片付けろってのか……」
播磨拳児が出て行って10日目の夜。久々に帰宅した彼を出迎えたのは酒瓶の海だった。
後日、笹倉葉子の個展が開かれた。その中の1枚
笑顔の刑部絃子がサングラスを掛けた男の耳を引っ張る絵が
学校で話題となるのはまた別の話
おしまい
- 74 名前:Classical名無しさん :04/07/20 18:58 ID:2xarE89Q
- >>63-73
GJ!
こういうのを待ってました。十分文章力あるじゃないですか!
不安がる絃子さんが実に可愛いくて゚+.(・∀・)゚+.゚イイ!!
ちゃっかり姉ヶ崎先生のところに転がり込んでるとは流石播磨ですね。
しかし笹倉先生の絵をみたら学校は騒然となるんじゃ…(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
とにかくGJでした。
- 75 名前:Classical名無しさん :04/07/20 19:02 ID:NfNBIbiQ
- 絃子可愛いよ!絃子!
- 76 名前:Classical名無しさん :04/07/20 19:28 ID:JZmhiykM
- こうしてスクランSSスレ初めての夏は超姉派の先制攻撃を以って始動したの
だった。
- 77 名前:Classical名無しさん :04/07/20 19:39 ID:44iwDcsc
- >>73
いや素晴らしい。
絃子さんだけに目がいきがちだが、葉子さんもお姉さんも凄く良い味だしてます。
三人ともの魅力を引き出すとは、やられました。
しかしやはり絃子さんは萌えるね、特にこの絃子さんは。
次の投稿を心待ちにしています。
- 78 名前:Classical名無しさん :04/07/20 23:01 ID:no2aObq.
- 超弦理論・・・
あ、いや何でもないです。
ともあれGJ!
- 79 名前:Classical名無しさん :04/07/20 23:02 ID:no2aObq.
- 書くなら『超絃理論』だったよ・・・orz
すまない、皆の衆すまない・・・
- 80 名前:上の書き逃げた者 :04/07/21 00:11 ID:Y5t8EOSE
- 初めてSSとやらを書いたのでドキドキでしたが
思ったより好評でホッとしました
また何かネタ思いついたら書きたいと思います
ありがとうございました
- 81 名前:Classical名無しさん :04/07/21 01:02 ID:ynzVWu4A
- 鉛筆(?)SS投下します。
現実では美琴の誕生日、作品中では播磨の誕生日が間近ということで鉛筆フェアですね。
スクラン史上に残る名場面、愛理vs美琴 花井vs播磨の#54がベースです。
- 82 名前:Classical名無しさん :04/07/21 01:06 ID:m.jpTm1Q
- 支援
- 83 名前:Majic Night :04/07/21 01:07 ID:ynzVWu4A
-
ある夏の夜のことだった――――――
矢神神社の裏には小さな山があって、鬱蒼とした林に覆われている。未だ自然の面影を残すこの山は朝夕は散歩コースとして人気は多いものの、夜になるとめったに人が訪れることはなく、おどろおどろしい雰囲気さえ漂わせている。
今宵も例に漏れず人気のないこの山を播磨はさまよい歩いていた。
「ちくしょう、どこなんだここは。てか、どーやってきたんだ??」
暗闇の中手探りで藪を掻き分けながら播磨は今に至るまでの経緯を思い出していた。
――――――そう、俺はあのメガネと最初は公園で闘ってたんだよな。闘ってた理由は・・・・忘れた。確かどーでもいい理由だったはずだ。
だが、闘いの最中にアイツは蹴りを止めやがった。それにムカついて・・・・マジになって・・・・疲れて・・・・仮眠とって・・・・
闘って・・・・腹減ったから善牛行って・・・・俺は銀シャリ、アイツは牛丼大盛りだったな・・・・で、また闘って・・・・
で、気付いたらこんな訳のわかんないところにいて・・・・いい加減疲れたから闘うのやめて・・・・メガネと別れて家に帰ろうとしたらこの有様だ。
てか、何時間戦ってたんだ俺ら?休戦を挟んだとはいえかれこれ16時間は闘ってたんじゃねえか?ホント何やってんだ俺は・・・・
そんなことを考えながら岩をよじ登り、さらに歩くとようやく視界が開けた。
「ここは・・・・へえ、こんな場所があったとはな」
そこはちょうど播磨と花井が先ほどまで闘ってた地点からほぼ真上に上がったところであった。地肌のはげあがった小高い丘のようになっており、矢神市内の夜景が一望できた。
――――――ま、たまにはこういうのも悪くないよな。
播磨は夜景に引きつけられるように、丘のへさきの方へと歩いていった。前に進むに連れ見える夜景の範囲が広がっていく。普段自分の暮らしている街が眼下に、手に取るように広がっている。
漆黒の闇、その向こうには海も見える。満月と適度な街の明かりが浮かび上がるようであった。
その時、播磨は自分の斜め前で体育座りをしている人影を発見した。その人影は月明りに逆光となっていたが、セミロングの黒髪と服装からどうやら自分と同じ年代の女である事がわかった。
それによく見ると夜景を見ているのではなく自分の膝と膝の間に顔を埋めているようだった。
- 84 名前:Majic Night :04/07/21 01:11 ID:ynzVWu4A
-
――――――なんでこんなところに女が一人で?
播磨がちょうどそう思ったとき女のほうも播磨の足音が聞こえたのか、ゆっくりと播磨のほうを振り向いた。
「・・・・播磨・・・・」
播磨のほうからははっきりと顔は見えない。だが、その声にはしっかりと聞き覚えがあった。何故なら、つい昨日何故かこの女と一緒に喫茶店にはいる羽目になったからである。
「周防・・・・か?何でこんなって、あー!?」
――――――ケンカの原因思い出したー!!
播磨は突然大声を上げた。だが、美琴はまるで動じることもなく不思議そうに播磨を見るだけであった。
「なあ周防、俺ってオマエになんか嫌がらせでもしたっけ?」
「・・・・」
美琴は少しうつむくと小さく首を横に振った。
「だよなぁ。ちくしょう、メガネの野郎何を勘違いしてケンカ吹っかけてきやがったんだったく。」
播磨がぶつくさと呟くと美琴が弱弱しく播磨に尋ねた。
「ケンカ?・・・・花井と?」
「ああ。ついさっき終わったけどな。」
「そうか・・・・」
美琴はボソリとうわ言のように呟くだけであったし、今にもふとしたきっかけで溢れ出しそうな悲しい感情を抑えるためにそれが精一杯であった。
――――――なんか今日の周防・・・・いつもと違う・・・・よな。よくわかんねーけど。なんか、辛い事でもあったのかもしれねーな。
だけど、普段の周防との付き合いからすると、はっきり言って俺が周防を慰める筋合いじゃねーだろうし、詳しい事情もわからないのに気休めで言葉をかけるのはかえって周防に失礼だよな。
てか、わざわざこんなところに来るって事は一人になりたいのかもしれないな。俺もそーいうときあるしな。なんか、周防の邪魔しちまってみてーだな・・・・行くか・・・・夜景は名残惜しいけどな。
- 85 名前:Majic Night :04/07/21 01:13 ID:ynzVWu4A
-
「じゃあ・・・・な」
播磨は一応の挨拶だけをして、そこから立ち去ろうとした。が、
「あのね・・・・」
「ん?」
突然美琴が口を開いたため播磨はその場で動きを止めた。
「・・・・・・いや・・・・・・」
美琴はそれだけ言ってまた口をつぐんでしまった。播磨はしばしの間じっとうなだれたままの美琴を見ていたが、美琴がそれ以上何も言わないようなので再び歩みをはじめようとした。
その時・・・・・・
ド オ ン
「「あ・・・・」」
漆黒のキャンバスに一際大きな花火が打ち上げられた。
周りに他の人がいない丘の上、いつもよりもより水平方向に見える花火はまるで播磨と美琴に何かを語りかけるようであった。
ドオン ドオン パラパラパラパラ・・・・
「スゲエな・・・・」
「・・・・・・・・うん」
鳴り響く爆発音と、眩い光に目覚めたかのように美琴はゆっくりと顔を上げ、
「私さ・・・・」
そして播磨のほうを振り返って笑って言った。
「フラれちゃった!」
「・・・・・・・・・・」
――――――無理しやがって・・・・
美琴の精一杯の笑み・・・・だが、播磨にもその笑みが哀しみの裏返しであることは容易に理解できた。
- 86 名前:Majic Night :04/07/21 01:15 ID:ynzVWu4A
- 「そうか。」
播磨はそれだけ答えた。そして、さらにしばしの沈黙の後、
「本気で・・・・好きだったんだな・・・・」
美琴は花火を見つめたまましばらく黙っていたが、それまでよりもハッキリとした口調で答えた。
「まあね。中学の頃からずっと・・・・好きだった・・・・ま、片思いだったんだけどねー」
「え?」
――――――それって俺も同じ・・・・ずっと好きだった・・・・その想いは今でもかわらねえ・・・・
なのに・・・・なのに・・・・『サイテーだよ播磨君』って・・・・ちくしょう・・・・
「・・・・ぐっ・・・・・・ずずっ・・・・すん・・・・・・・・」
――――――えっ?
美琴はその音に驚いて播磨のほうを振り向いた。そこには花火と月明りに照らされた、すすり泣く男の姿があった。
――――――播磨が泣いてる!?なんで?なんで?え、私の話で?もしかして、塚本が言ったとおり私を好・・・・いや、でもそうなら普通、私がフラれりゃ喜ぶはずだろ・・・・
それとも、アイツは心から私のことを・・・・・・・・
私のために・・・・・・・・
美琴の心にできた小さなスキマ。そこに堪えきったはずだった悲しい感情と、新たに生まれた暖かい感情が流れ込んできて、美琴は再び両膝の間に顔を埋めた。そして、肩を振るわせた。
一度堰を切った感情はなかなか留まることを知らず、ようやく美琴が落ち着きを取り戻したのは花火が終わる頃であった。
「終わったな」
「ああ」
「播磨」
「ん?」
「ありがとな」
「何が?」
「ふふっ、そうやってオマエはいつも・・・・」
――――――下心なく優しくしてくれるんだよな。シャーペンの時だってさ・・・・
- 87 名前:Majic Night :04/07/21 01:16 ID:ynzVWu4A
- 「俺がいつも、何だって?」
「なんでもねーよ。さ、帰ろうぜ」
「そうだな。ああ、ワリイけど途中まで一緒に帰ってくんねーか?帰り道がわからん」
「ああ、いいよ」
二人は花火の感想を語ることもなく黙々と歩いた。あっという間に、矢神神社の入り口にたどり着いた。
「助かったぜ。こっからは道わかるから大丈夫だ。それじゃあな」
「ああ。あ、そうだ、花井にはキッチリ説教しとくから」
「ああ。頼むわ」
その播磨の言葉を皮切りに二人はそれぞれの方向へと歩き始めた、が、
「播磨」
美琴がもう一度呼びかけると播磨はピタリと足を止め美琴の方を見た。
「ありがとな!」
「ああ」
月明りに照らされるいつも通りの美琴の笑顔、播磨もつられて軽く微笑んで、
そして再び二人は背を向け合い歩き始めた。
――――――んで、何が「ありがとう」だったんだろ?なんもしてねーと思うんだが。話を聞いてやったからか?うーん、よくわからんが、ま、いっか。
播磨は家につくまでの間そんなことを考えたりしていた。
- 88 名前:Majic Night :04/07/21 01:20 ID:ynzVWu4A
- 美琴は家につくとすぐ風呂に入り、あがってベットの上に寝転がると目を閉じた。
――――――疲れた・・・・本当に今日は色々なことがあり過ぎだよ。でも、あんな嫌な事があったのに、辛くないこたないけど、そんなに辛くない
・・・・・・・・神津先輩・・・・・・・・・・・・播磨・・・・・・・・・・って浸ってる場合じゃねえな。それよりも明日ちゃんと沢近と話しして仲直りしないとな。
うん、大丈夫、きっと上手くいくよな。とりあえず、今日は寝るか・・・・・・・・ん、ちょ、ちょっと待て、
そういや沢近と播磨が仲良く手つないで見つめ合ってたのは何だったんだ?見間違い?
んなわけないし、でもアイツは私のために泣いてくれたし、てか何がどうなってんだ?わけわかんねー!!
結論の出ない思考の渦に巻き込まれ、結局美琴が眠りについたのは空が白んでくるころであった。
- 89 名前:Majic Night :04/07/21 01:24 ID:ynzVWu4A
- そして翌日
トゥルルルルル ピッ
『もしもし』
「あ、沢近?あのさ、ちょっといいか」
『何の用?私をからかうネタでも見つかった?昨日のオノロケ話でも聞かせてくれるのかしら?』
「な、何言って、そんなわけないだろ」
『どーかしら。私昨日見たわよ。アナタと播磨君が仲良く花火見てるの。好きな人との用事ってあれだったんだーへぇー』
「なっ、オマエッ見てたのか?いや、あれは違」
『アイツが私に告白してきたのだって、大方アナタ達二人で私をからかっただけなんでしょ?』
「いや、だから聞けって」
『ふん、今さらアナタの話なんて聞きたくないわ。じゃあねっ!』
ぷち つーつー
「・・・・あ、あのヤロウ・・・・取り付く島がねえ・・・・どうしよう・・・・」
その後どうなったかというと、茶道部合宿は足並みが揃わずお流れとなり、美琴は沢近と仲直りできないまま、播磨は『サイテー』発言を解決できないまま、いや、もう何もかもがグダグダになって新学期を迎えたのであった。
合掌・・・・じゃなかった終
- 90 名前:Majic Night 書いた人 :04/07/21 01:28 ID:ynzVWu4A
- 投稿してからなんですが,#54はせっかくの名場面だったのに自分は活かしきれませんでしたね。
改行も怪しいし。推敲が甘かった。
タイトルは、投稿間際に決めました。「Majic」に意味はありません。
ただ、マジックナイトという強い競走馬がいたのでそこから取りました。
- 91 名前:Classical名無しさん :04/07/21 01:29 ID:tlOoFXbM
- >89
落ちのしょうもなさ加減もアレなんだけど、一つだけツッコむ。
Magic nightじゃないのか?
- 92 名前:Classical名無しさん :04/07/21 01:30 ID:r45FT5cE
- なんか、最近の作品は情景描写が少ない上に、三点リーダが多すぎる気がする。
- 93 名前:43 :04/07/21 02:17 ID:ELFb7WPA
- 遅くなりましたが、『My Gift to You』感想くださった方々ありがとうございました。
概ね好評のようで何よりです。
>>45>>48
そういってくれると助かります。一人称だからその点を気にして書いてるんで
>>62
そ、そうですか?あまり深く考えていなかったんですが…そういえば、三巻の
通知表で、担任が美琴の父親を怖がってるけど、実際どんな父親なんでしょう?
>>46
続き期待して下さってありがとうございます。しかし、はっきり言って今のところ
無理っぽいです。ほとんどここまで勢いで書いてきたようなものですし。小ネタは
有ってもSSにするには足りなく、ストーリーになりません。気長に、期待せず
お待ちください。書けなくても怒らないで…
>>92
読み直した所、三点リーダ確かに自分のは多いですね。言葉を発したり、
思い浮かぶまでの間や、言ったり思った後の余韻を表現しようとしたんですが
確かにしつこかったかも。
情景描写の点で自分の作品についてはちょっと言い訳させてください。
自覚はしていますが、一人称SSのため、詳しすぎるとおかしくなりそうなんです。
たとえば何かを考えている時に周りの様子を気にしてみているでしょうか?
時折三人称を使い分ければ良いかもしれませんが、自分の力量では無理です。
長くなってすみませんでした。それでは
- 94 名前:Classical名無しさん :04/07/21 08:28 ID:TFGFBHkM
- >>90
鉛筆GJ
- 95 名前:Classical名無しさん :04/07/21 10:09 ID:MxtqCIAs
- こうやって連続で見ると鉛筆もなかなか…
なんて流されやすい俺。
- 96 名前:Classical名無しさん :04/07/21 10:11 ID:0UOZBzbU
- >>90
あの場面を沢近でなく播磨でやってみたわけですな
じゃ花井でやってみたら…なんか流れ的に美琴は播磨に振られたと花井が勘違いしそう(w
- 97 名前:Classical名無しさん :04/07/21 15:30 ID:igcaW.eU
- 妄想垂れ流していいですかー。
- 98 名前:Classical名無しさん :04/07/21 15:40 ID:NfNBIbiQ
- 垂れ流せ
- 99 名前:Classical名無しさん :04/07/21 16:03 ID:igcaW.eU
- 目の前の男、その広い背中に抱きつく。机に向かってなにやら描いていた
男――播磨拳児がいぶかしげに振り向いた。
「何だ?」
「別に。なんでもないわよ」
しれっと答え――しかし絡めた腕の力は弱めずに、沢近愛理は播磨の背中に
顔をうずめた。
『こういう関係』になるまでに、色々な事があった。
皆が周知の出来事(本編)を含めて、本当に色々と。
……コイツが天満に告白して。フラれて。天満が烏丸君に告白して。でも
烏丸君は転校しちゃって――
天満と烏丸は、只今文通中だ。烏丸の手紙が常に簡潔な――例えば『カレー
が食べたい』とか――ものなのに対し、天満の手紙はいつも巻物並のサイズ。
エアメールではなく、小包扱いで送っている。郵送費も馬鹿にならないだろうに。
「まあ、分かる気はするけどね」
「何がだよ?」
「別に」
恋人の不審な態度に疑問を持ちつつも、目の前の締め切りの方が重要だと
播磨は判断したようだ。手元の原稿に集中し直す。
播磨の描く漫画は愛理も認めている。が、締め切りが近くなると播磨は部屋
にカンヅメになる為、会えなくなる。
……それさえなきゃ、ね。
- 100 名前:Classical名無しさん :04/07/21 16:05 ID:igcaW.eU
-
仕方なく妥協策で、愛理の部屋で描くという事になって、今こうしている。
トーンの屑が散らばったりするが、会えないよりはいい。
回想もそこそこに、ぺたりと肌を寄せて感触を味わう。頼りがいのある広い
背中は、どこか父親を思い出す。カリカリとペンの走る音。少し汗臭い、彼の
匂い。とても――
……気持ち良い……
ただ快楽を貪るかのように、肌を摺り寄せる。播磨は描きづらそうにするが、
振り払ったりはせず、わがままなお嬢様の為すがまま。
とはいえ、愛理も言い分がある。この心地よい時間を味わうのに、多くの労力
を――主に恋敵達との抗争に――費やしたのだから、これぐらい甘えたとしても
罰は当たるまい。
「ねえ――拳児」
「なんだよ――愛理」
名前を呼んだこちらに対し、律儀に名前を呼び返す。子供っぽいのか、それ
ともこっちの気持ちが分かるのか。
どちらだろうな、と思いつつ、愛理は囁いた。
- 101 名前:Classical名無しさん :04/07/21 16:07 ID:igcaW.eU
-
「私のこと、好き?」
「いいや」
愛理の問いを播磨は即座に否定。むっとする愛理の顔をしばし眺めてから、
「大好きだ」
言われ、理解するのに数秒。行動に移すのは一瞬。
「――んんっ」
唇が重なった。
- 102 名前:Classical名無しさん :04/07/21 16:08 ID:igcaW.eU
- 垂れ流し完了。改行多いとか言われた_| ̄|○<チュウモンノオオイリョウリテン
――しかし妄想を晒すというのは、実に見事な羞恥プレ(ry
- 103 名前:Classical名無しさん :04/07/21 17:36 ID:Pp4HmIL.
- >>102
GJ!
なんか大人っぽくて良い雰囲気の二人ですね。甘くてイイ!
短いながらもなかなか濃い話でした。
あと、いちいち聞かなくてもいきなり投下した方がいいですよ。人がいないことも多いですし
- 104 名前:Classical名無しさん :04/07/21 17:54 ID:1UyPpf1k
- >>99-102
甘い旗SSキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
播磨に甘える沢近が破壊力抜群でした。
こんな妄想ならこれからもどんどん垂れ流して下さい。
- 105 名前:102 :04/07/21 18:51 ID:igcaW.eU
- >>103
いや、別に誰かのOKを待っていたわけではなくて。
97で宣言してから書き始めただけです。だから短い。
>>104
さすが我が妄想<破壊力
次はエロパロ板で見つけたシチュ
「播磨と付き合ってる八雲。
だが何かの拍子に心が見えなくなってしまい、
播磨の心がわからず捨てられた子犬みたいに不安がる八雲」
の妄想に挑戦――
できたらいいなあ。
- 106 名前:乗船前 :04/07/21 22:34 ID:SgMKkMVQ
- 夕食後、くつろいでいると電話が鳴った。
「絃子か。 俺だ」
バカ従姉弟の声だった。
「『さん』をつけろ『さん』を。 で、どうした?」
「また、休学届を出しておいてくれねえかな」
「!」
以前にも、こんな事があった。
そう、一学期のころ。
何日か学校を休んでいて、マンガを描いていた。
そして、何も言わずにいなくなった。
何日かして戻って来たとき、動物を思う優しい男になっていたのには驚いた。
本人は何も話さないが、姉ヶ崎先生と何かあったらしい……
あのときは、行方不明ですなんて言えないから、休学届を出しておいた。
後になって知った彼に、ありがとよと感謝された物だった。
それを、今度は自分から出してくれと言う。
(また、塚本君絡みか……)
そう思いながら、彼に尋ねた。
- 107 名前:乗船前 :04/07/21 22:35 ID:SgMKkMVQ
- 「で? どれくらいで戻って来るんだい?」
前回の事もあるから、一ヶ月くらいか、そんな風に考えていた。
「えっと、漁から戻ってくるのは一年後だってよ」
「は? 漁? 一年? ちょっと待て拳児君、なんだそれは?」
「ああ、マグロ漁船に乗る事にしたんだ。 しばらく日本を離れようと思ってよ」
とんでもない答えに、一瞬頭の中が真っ白になった。
マグロ漁船? 一年? 日本を離れる? なぜ?
「ちょ、ちょ、ちょっとまて、拳児君。 なにも其処までやる必要はないだろう?」
「珍しいな、従姉弟が慌てるなんて」
「だ、誰が慌ててなぞいるものか」
「落着けって、絃子。 こんな事頼めるの、絃子だけなんだ」
- 108 名前:乗船前 :04/07/21 22:35 ID:SgMKkMVQ
- これじゃ、いつもと逆ではないか。
いつもなら、私が彼を止めるのに……
「絃子の事だ、察しが付いていると思うから、詳しくは言わねえ。 でも、俺なりに考えた結論なんだ、止めないでくれ」
「拳児君…… わかった、届は出しておくよ」
「すまねえな、絃子」
「ただし、無事に帰って来る事。 いいね?」
「ああ、わかった。 約束するぜ」
「約束を破ったら、どうなるか判っているね?」
「もちろんだ。 もうあんな目に逢いたくねえからな」
互いに軽口を叩き合う。 しんみりした物は、いつの間にかなくなっていた。
「おっと、ぼちぼち出港だ。 それじゃ、切るぜ」
「拳児君。 ちゃんと帰って来るんだぞ、キミの家は、ココなのだからな」
「ああ、『おかえり』って、言ってくれよ。 それじゃ、行ってくらあ」
電話を切った途端、彼の顔が思い浮かんだ。
苦労はするだろう。
でも、成長して帰って来るだろう。
「さてと、約束だからな。 書くとするか」
私は、休学届を作成する為に、机に向かった。
愛しい、けれどバカな従姉弟の無事を祈りながら……
おわり
- 109 名前:乗船前 :04/07/21 22:39 ID:SgMKkMVQ
- 新スレになってIDが変わりました。
本編がとんでもない展開なので、補完の為のSSです。
休学すれば、留年は避けられると思いSSしました。
- 110 名前:Classical名無しさん :04/07/22 01:10 ID:YcO3buKU
- >>43
鉛筆キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*GJ!
- 111 名前:Classical名無しさん :04/07/22 12:28 ID:RopKxP9E
- SS保管庫は22日になっても更新が……orz
- 112 名前:Classical名無しさん :04/07/22 12:58 ID:jmK3k85U
- 忙しいんだろ。その内更新されるよ、マターリ待て。
俺も一応過去ログ全部残してあるし。
- 113 名前:Classical名無しさん :04/07/22 20:33 ID:7R5f7SIw
- 保管庫更新?
- 114 名前:Classical名無しさん :04/07/22 21:31 ID:s.p79sOI
- 人気投票締切前の俗っぽい煽動行為。でも隣子票ってカウントされるの?
《投下》
- 115 名前:言葉にならない 1/3 :04/07/22 21:32 ID:s.p79sOI
- 「すいませーん」
嵯峨野さんがそう言いながら引き戸を開けます。
体育の時間中なのに、私たち二人がいるのは保健室の前。
ちょっとひねっただけだから大丈夫って言ったのに、みんな心配性だよね……。
ここまで付いて来てくれた嵯峨野さんや、すぐに駆け寄ってくれた城戸さんたち。
授業中時々うるさかったりするけど、このクラスになれて本当に良かったと思います。
「はーい。あら、その重心の傾き方は……捻挫かな?」
間違いなく捻っただけなので頷いておきます。
声の主は、二学期の途中から来た若い保健室のお姉さん。名前は姉ヶ崎先生。
この人に替わってから男子もよく来るようになって落ち着かないと女子には嫌われてます。
確かによく体調不良でぐったりしてる彼女たちが男子に見られたくないのもわかるけど、
それは先生のせいじゃなくて男子たちが節操もなくこの奇麗なお姉さんに…… ん?
そういえば、播磨くんがこの人を真っ昼間から押し倒したとかいう噂もあったような。
ちゃんと保健の先生がいたので、は体育の授業に戻っていきました。
他に人はいないから、姉ヶ崎先生もすぐ診断してくれそうです。
「この時間だとグラウンドにいるのは2−Cだったかな? あ、合ってた?」
私が2−Cの生徒だとわかるとやけに嬉しそうにしています。
そのままベッドに座らされ、靴下を脱いで異常がないか確認してもらいます。
触診が重要なのはわかるけど、もうそんなに痛くないからちょっとくすぐったい……。
「うん! これくらいの腫れなら湿布で良さそうね。ちょっと待っててね」
そう言って先生は奥の小型冷蔵庫から冷えた湿布を出してくれました。
足に貼ってもらうとひんやりしてとても気持ち良かったのですが、それよりなにより。
あの冷蔵庫にビールらしき缶まで見えたのは目の錯覚なのでしょうか。気になります。
- 116 名前:言葉にならない 2/3 :04/07/22 21:33 ID:s.p79sOI
- 私の視線に気が付いたのか、また姉ヶ崎先生から話し掛けてくれました。
「治ったようでも今日いっぱいは無理しないでね。終わるまでここで休んでく?」
「はい」
空調が効いた部屋とただ見学するだけになる体育の授業の二択なら迷いません。
でも、特に何もすることがない部屋にいるのはやっぱり退屈すぎたかな?
その願いが通じたのか全く関係ないのか、姉ヶ崎先生が話し相手になってくれます。
「あ、そうだ。あなたのクラスにヒゲの似合うとっても怖ーい男の子がいるでしょ?」
―――播磨くん!?
すぐにその名前が浮かびましたが、怖いという部分が何か違う気がしました。
この先生と播磨くんの噂があるせいですぐに名前が出てきそうになったのでしょうか。
他にヒゲが似合ったり怖かったりする男子は思いつかなかったので、こう答えます。
「怖い人なんていません。ヒゲの似合う優しい男子なら、一人だけ」
すると姉ヶ崎先生はクスクス笑って、
「あらら。ハリオってば……。ふーん、そうなんだ」
なんだかよくわかりません。ハリオって、誰?
呆気に取られたままの私をもはや気にしていないように先生は続けて呟きます。
「貴女のクラスって、本当にいいクラスなのね。そっかー優しいんだー。いいなー」
子供みたいに羨ましがってる姉ヶ崎先生だけど、一体何を羨ましがってるの?
とてもいいクラスだとは私も思いますが、先生の言いたい事はどうにもわかりません。
そのあとすぐチャイムが鳴ったので、疑問を残したまま保健室を出ることにしました。
まだちょっと足に刺激が来るけれど、これなら放課後には普通に歩けそうです。
- 117 名前:言葉にならない 3/3 :04/07/22 21:33 ID:s.p79sOI
- と。次は化学だから移動教室でした。
体育の授業もチャイムよりそこそこ早く終わっていたらしく、教室は人の波。
教科書・ノートを机に取りにいこうとする人と、腕に抱えて出て行こうとする人。
お互いが我を通そうとしているために渋滞してしまっています。
化学実験室は遠いから、早めに教科書類を持って先に行っておきたいんだけど……
あれだけ混み合っていると人にぶつかって庇っている足に負担をかけてしまいそうです。
どうしてみんなこんな時に限って譲り合わずにのろのろ動くんでしょうか。むー。
「あれれ? 私の化学のノートどこー?」
塚本さんが大声で探し物をしていますが、割とよくあることなので誰も気にしません。
周防さんか高野さんが戻ってきて手伝うと一瞬で見つかるのはこのクラスのお約束です。
ところが今日はその二人ではなく、大きな影がそちらへと向かっていきました。
教科書もノートも既に手にしている、播磨くん。
いくらクラスに馴染んでいるとはいえ、まだ彼の道をふさぐ勇気のある人なんていません。
たちまちその隣である私の席にそのまま歩いていけるだけの空間ができました。
「お、おう塚本。ノートっていうのはその机の下に落ちてる奴じゃねえのか?」
ぎこちなく喋る播磨くん。忘れ物でもなさそうだし、なんで戻ってきたんでしょうか。
後ろを付いていっただけで簡単に席に戻れたので化学の授業に必要なものを揃えて……と。
「ホントだ。ありがとー播磨くんっ! これで遅刻せずに済むよー」
「いいってことよ。じゃあ俺はこれで行くわ」
そう言ってすぐに立ち上がる播磨くん。また十戒のように道が開けていきます。
―――え!?
播磨くんが何のために自分の席に戻ってきたのか。
ひょっとして、ひょっとすると。いえ、そんなことはないとは思うんだけど……。
歩きにくくしていた私が、人ごみの中を無理して歩かずに済むように?
……こんな事されたら、他の人なんて目に入らなくなりそうです。
《おわり》
- 118 名前:114 :04/07/22 21:34 ID:s.p79sOI
- 普通ならこういう時は女友達が色々とフォローしてくれるものなんですけどね。
隣子の友人関係って恵ちゃん以外は全部名前のないモブなんですもん!
- 119 名前:Classical名無しさん :04/07/22 22:00 ID:Rt66OSF.
- >>118
GJ。だが隣子は誤解をしt(ry
こうして播磨はまだ一人、おなごを落としたのであった。合掌。
- 120 名前:Classical名無しさん :04/07/22 22:12 ID:7VBN8m9c
- やばいマジでGJ!
久々の隣子SSに感激です。この情報の少なさでここまで書けるとは上手すぎ。
人気投票に向けてプッシュされたのはお姉さんのような気もしますが、
だがそこが良い。缶ビール(・∀・)イイ!
隣子一人称も凄く可愛さがでてますよ。
- 121 名前:Classical名無しさん :04/07/23 00:24 ID:fab4xAPk
- しかしホント(゚д゚)ウマー
- 122 名前:Classical名無しさん :04/07/23 07:22 ID:zjD0eHxM
- はじめまして。
SS書くのは初めてなんですが、
とりあえず八雲SSを投下してみます。
拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。
- 123 名前:彼女の想い :04/07/23 07:23 ID:zjD0eHxM
- 「はぁ……」
思わずため息を吐いてしまう。夜、自室で一人になった時、自然と今日あったことが思い出されてしまった。
今日の午後、バイト先に姉さんたちが来た。それはいい。ただ、その時に、私とあの人が、その……付き合っている、と誤解されてしまった。
あの人のことを思い出す。どこか怖そうな雰囲気がするけど、本当はとても優しいあの人を。
初めて会ったのは、あの人がクーラーを直しに家にやってきた時だ。それ以前にも姉さんのクラスで見かけたり、キリンさんの飼い主があの人だったりとしたけど、はっきりと会ったと呼べるのはあの時だろう。
でも、別にその時何かあったわけではない。伊織を助けてくれたりもしたが、その時はただあの人の心が視えないということに興味を持っただけ。
- 124 名前:彼女の想い :04/07/23 07:25 ID:zjD0eHxM
- 私があの人のことを意識しだしたのは、そう――二学期になって、あの人が飼っていた動物たちのことでの騒動の時だろうか。
あの時、あの人は動物たちを必死になって逃がそうとしていた。そこに、あの人の優しさが感じられた。そんな様子を見ていた私の口からは、思わずあの人の名前が漏れていた。
その時の私は、あの人のことを無意識に「先輩」ではなく「さん」と呼んでいたのだ。後で気付いたが、私があの人の名前を口にしたのはこの時が初めてだった。
それから、私はどうも少し変になったようだ。
- 125 名前:彼女の想い :04/07/23 07:27 ID:zjD0eHxM
- 結婚式のお芝居の時には、私は男の人が苦手だというのに、相手の新郎役が気になっていた。無意識に、もしかしたらあの人がなってくれるのでは、という期待を抱いていた。
乱入してきたあの人が私の事を誰かと勘違いしていると気付いた時は、あの人が探している相手ではないことを告げることがなかなか出来なかった。
あの人の漫画を見た時には、「また読んでもらいたい」という言葉に自然と嬉しくなっていくのを感じていた。
姉さんがあの人から貰ったお礼の色紙を見て「誰から貰ったのか」という問いには、思わず「ヒミツ」と答えていた。
あの人の「キスしてもいいか」という言葉には、漫画の事だと分かっていても動揺しないでいることは出来なかった。
どんどんあの人に惹かれていくのが自分でも分かっていた。
そして今日、あの人とのことが誤解されてしまった。
- 126 名前: