元のスレッド

草上の昼食

1 名前:町医者投稿日:2001/09/25(火) 10:24 ID:???

静かな食卓は温度を失ったわけではない

2 名前:町医者投稿日:2001/09/25(火) 10:27 ID:???

*妻は咀嚼をするのが下手糞だ*

3 名前:町医者投稿日:2001/09/25(火) 10:30 ID:???

彼女は少しでも気を抜くと、口からぽろりと物が落ちる。
普段もぼんやりしている時に、口が開いていたりするし、
寝ている時に涎を垂らしている事もしばしばである。
それでも彼女は「おいしい」と、
わたくしの作った茸と鮭の炊き込み御飯を食べている。
季節はもう秋。

4 名前:生涯反抗記 ◆HaNkouJQ投稿日:2001/09/25(火) 15:01 ID:???
ほほう。

5 名前:混沌スープ投稿日:2001/09/26(水) 00:14 ID:???
涼しい夜ですし。

6 名前:生涯反抗記投稿日:2001/09/26(水) 22:22 ID:???
終わりかね?

7 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/09/26(水) 22:58 ID:hsx06xcs
てs

8 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/09/26(水) 22:59 ID:hsx06xcs
てs

9 名前:SM考察隊投稿日:2001/09/26(水) 23:06 ID:???
猿と酸っぱいレモンのような感じです

10 名前:町医者投稿日:2001/09/27(木) 06:04 ID:???

*妻とわたくしは時折午前4時の散歩に出かける*

11 名前:町医者投稿日:2001/09/27(木) 06:11 ID:???

[さがしています]

「この犬は今頃どこにいるのかしら」
彼女は目深に被った帽子の奥で、
いなくなってしまったどこかの犬に思いを馳せている。
「日が明けるのが随分遅くなったね」
そんな時、わたくしは彼女の手をそっと握りしめる。

彼女の中の埋められない記憶。
帰ってきた静かな食卓で、彼女が白い錠剤を噛み砕く時、
わたくしは限りのない虚無に襲われて、やるせない気分でいっぱいになる。

12 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/09/27(木) 09:57 ID:???
昭和の作家のようだ

13 名前:混沌スープ投稿日:2001/09/27(木) 17:36 ID:???
もっと。

14 名前:名無し芋投稿日:2001/09/27(木) 21:21 ID:???
しみじみちらり。

15 名前:混沌スープ投稿日:2001/09/30(日) 23:35 ID:???
終わっちゃうの?

16 名前:生涯反抗記投稿日:2001/10/02(火) 18:47 ID:???
このあとどうするんだろう?

17 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/02(火) 18:51 ID:???
なんとなくささやかなハッピーエンドをきぼん
切実に続きをきぼん

18 名前:町医者投稿日:2001/10/02(火) 21:53 ID:???

*妻と肉屋の主人の関係*

19 名前:町医者投稿日:2001/10/02(火) 21:58 ID:???

「また入ってるわ」
夕飯の支度をするために買い物に出た妻は、
ぶら下げている肉屋の袋の中を見て呟いた。
「どらどら…」

おとといは薩摩揚げ
昨日は芋の天ぷら

「今日は唐揚げ」
妻は、剥き出しのまま肉の包みの上に転がっている唐揚げをつまみ取ると、
パクリと口に運んだ。

20 名前:町医者投稿日:2001/10/02(火) 22:06 ID:???

「変なのよねえ」

路上電車の線路沿いにある小さな肉屋だった。
妻は路面電車がいたく気に入り、ここで肉を買うことが多い。

「こんにちわ」

妻が店に顔を出すと、主人はちらりとこちらを見るが、何も言わない。

「豚コマ100g下さい」

主人は小さく頷くと、手際よく肉を計る。

21 名前:町医者投稿日:2001/10/02(火) 22:09 ID:???

「はいよ」

「昨日はありがとうございました」

「・・・ん?」

「お芋の天ぷら。とってもおいしかったです。」

「・・・何のこと?」

店主は口元だけニヤリと笑った。

22 名前:町医者投稿日:2001/10/02(火) 22:22 ID:???

「お礼を言っては、いけないことだったのかしら・・・」

「・・・君が好かれている証拠さ」

「・・・」

「今日は何を作るの?」

「れんこんと豚肉の煮物」

肉屋の挽く肉の味は、大変おいしいものであった。

23 名前:混沌スープ投稿日:2001/10/03(水) 00:14 ID:???
あぁ。

24 名前:名無し芋投稿日:2001/10/03(水) 21:38 ID:???
はぁぁ・・・。

25 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/03(水) 21:51 ID:???
うん、なかなかいい
急かずにゆっくり書いてください

26 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:10 ID:???

*妻に届けない手紙を書くことがある*



27 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:15 ID:???

『こんにちわ
 お隣の金木犀が、そろそろ香ってくる頃です
 昨日、君の揚げた茄子の素揚げもとっても美味しかったよ
 もう少し涼しくなったら、また秋桜畑に行きましょう
 さようなら』



28 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:17 ID:???

「ただいまー」

「遅かったね」

「ああ…重かったよ」



29 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:22 ID:???

「どうしてたの?またこんなに…」

「どうしても、拾わずにはいられなかったの…」

妻が拾ってきたものは、20本あまりのビデオテープだった。

「何が撮ってあるのかしら」

「何が撮ってあるだろうね」



30 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:30 ID:???
もう、何本見ただろうか。
ビデオテープは、おそらくいかがわしいものであるだろうと、
わたくしたちは高をくくっていた。
しかし、そのビデオの全てが、
もう何年も前の「ものまね王座決定戦」であった。



31 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:35 ID:???

始めのうちはいい。
やれこのCMは何年前のものだとか、この人は最近見なくなっただとか。
しかし、止められないのだ。
まだ残ってる、他のテープに何かがあるのではないかと思わずにはいられなかったのだ。

「ハロー……ハロー……」

その時だった。



32 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:44 ID:???

13本目のテープに、上品そうな老婆が少しかしこまった感じでこちらを見ている。
テープの劣化のせいか、ひどくその声は小さく、そして所々途切れていた。

「…の、もみ…も色づき始めてきました
 もうすぐ、…の実も取れるので、また庭で…ましょう」
 
老婆はそこまで言うと、うつむき言葉をしばらく失っていた。

「…になったら、また、絶対に…ましょうね」



33 名前:町医者投稿日:2001/10/06(土) 14:48 ID:???

「誰かに宛てたものだったみたいだね」

「ちゃんと届いたのかな?その人には」

「さあ…」

届けない手紙は、本当はいつか、届けるために書いているのかもしれない。

34 名前:田中きのこ投稿日:2001/10/06(土) 15:24 ID:???
なんだろう。言葉では言い表せられない何かがある。

35 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/08(月) 13:35 ID:???
アスパルテーム の書き込みがない。

ひょっとして、町医者=ア・・・

36 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/08(月) 19:33 ID:???
このスレ、見つけられてよかったなぁ

37 名前:名無し芋投稿日:2001/10/08(月) 19:46 ID:???
ふむ〜・・・。

38 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:03 ID:???

*いまだに夫は私の事を名前で呼ぶ*



39 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:04 ID:???

夫に内緒で実家に帰ってみた。
私たちの住んでる場所から、電車で一時間も離れていないので、
内緒で帰ったと言ってもなんてこともない距離だけれど。
そう。ほんの少しの出来心。



40 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:04 ID:???

家を出て、もう8年になる。

「おかえり」

すっかりと、ここは自分のいる場所という感じがしない。
母は、今でも帰るとこう言うけれど。

私は彼と暮らすようになってから、ほとんど家に帰らなくなった。
いや、寄り付かなくなったと言った方が正しいかもしれない。



41 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:05 ID:???

母は雀たちに餌をやるのを「ほぼ」日課としている。
米を研いだ時にこぼれ落ちた米粒を、上手に集めて庭にまくのだ。
母は、雀たちを「ピーコたち」と呼ぶ。
どの雀がやって来ても「ピーコ」。



42 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:07 ID:???

私が家を出てまもなくして、父が体調を崩した。

なんとなく、遠くのどこかの家族の話を、聞いているようだった。
なんとなく、目の当たりにしない事で、現実の事でないような気がしていた。
なんとなく、彼らの傍にいないことで、ひどく疎外感を感じた。

いつしか私は実家に帰らなくなっていた。



43 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:08 ID:???

「あんた…」

庭に立ち尽くしていた私に、母が声をかける。

「ピーコたちの餌踏んでるわよ」

靴のヒールの部分に米粒が2、3ついていた。

「帰るね」

菓子折りを渡すと踵を帰した。
なんとなく、そうせざる得ないような気がしたのだ。



44 名前:町医者投稿日:2001/10/09(火) 12:08 ID:???

母が雀を全て「ピーコ」と呼ぶのも、
彼が今だに私の事を名前で呼ぶのも。
平穏な現実。
ほんの少しの出来心でさえも、
私は自分の現実を崩すことが出来ない。


45 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/09(火) 18:16 ID:???
どっかでこんな感じの文章を書く人を見たな
誰だっけな

46 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/12(金) 08:08 ID:M/ZGscH2
ふと寂しい
age

47 名前:名無し芋投稿日:2001/10/12(金) 21:07 ID:???
ふむぅ・・・。

48 名前:町医者投稿日:2001/10/16(火) 15:26 ID:???

*妻は塀の下を見え隠れする四足歩行に目を見張っている*



49 名前:町医者投稿日:2001/10/16(火) 15:27 ID:???

夜中に猫の鳴き声で目が覚めた。

「猫の泣き声は」

妻の横顔は月明かりに照らされて、ほの白く光っている。
静かに耳を傾けてる、その横顔から伺える睫の先まで。


50 名前:町医者投稿日:2001/10/16(火) 15:28 ID:???

「赤ん坊に似ている」

強張っている体にそっと触れてみる。

「ごめんよ」

「そんな風に言われると」

表情は伺えない。ただ静かな声だけ。

「少し不幸せ」


51 名前:名無し芋投稿日:2001/10/16(火) 18:24 ID:???
(ノД;)ぁぅぁぅ... 

52 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/16(火) 18:32 ID:???
むー お久しぶり

53 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/19(金) 01:46 ID:???
つづきが楽しみなスレなんだな。ここは。

54 名前:名無し芋投稿日:2001/10/30(火) 15:37 ID:???
ちらり。

55 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/30(火) 17:50 ID:???
続きを待つ、芋と名無し

56 名前:町医者投稿日:2001/10/30(火) 19:06 ID:???

*食卓の上で妻の爪を切る*


57 名前:町医者投稿日:2001/10/30(火) 19:06 ID:???

健康的でもなく、かと言って、不健康でもない。
ラグランスリーブから伸びる、白い腕。
窓から指しこむ青白い光に、照らされている側は、
眩しいくらいに透き通って、瞬きすることさえ、ままならないくらいだ。


58 名前:町医者投稿日:2001/10/30(火) 19:07 ID:???

妻には、爪を噛む癖があった。
ほおっておくと、妻の爪はガタガタになる。
そのくせ、妻は自分で爪を切るのが下手糞であった。
妻は、基本的に不器用なのだ。


59 名前:町医者投稿日:2001/10/30(火) 19:08 ID:???

だから私は今日も、食卓で彼女の爪を切る。
彼女の白い腕に、目を細めながら。
瞬きすることを、乞うように。


60 名前:生涯反抗記投稿日:2001/10/30(火) 19:14 ID:???
おお。

61 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/30(火) 21:04 ID:???
うむうむ。

62 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/30(火) 23:14 ID:???
はふぅ・・・

63 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/10/30(火) 23:33 ID:???
眼福・・。

64 名前:名無し芋投稿日:2001/10/31(水) 08:34 ID:???
・・・。

65 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/06(火) 18:21 ID:???
ふふ、待ってますよ。

66 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:18 ID:???

*遅い午前中の電車に妻と二人で乗る*


67 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:19 ID:???

ラッシュを過ぎた、下り電車だった。
人はまばらで、初冬の優しい光が車内を照らしている。
先頭車両には、ほとんど人がいなかった。
私たちの斜め前には、女子高生がぽつりと座っている。


68 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:19 ID:???

(クスクス)

私の肩にもたれていた妻は、静かに笑っている。

(どうしたの?)

(あの女子高生)

(かわいいね)


69 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:20 ID:???

ミニスカートからは、すらりとした足が伸びていて、
ワンポイントの入った、紺色のハイソックスを穿いている。
首には、おろしたての感じがする、マフラーを巻いていた。
我々が乗ってくるよりも、先に乗っていたので、
随分と遠い所から、学校に通っているのかもしれない。
彼女はそんな疲れのせいか、すやすやと眠っていた。
暖かい日の光が、彼女の染められた髪の毛を透かしている。


70 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:20 ID:???

彼女は大変、愛嬌のある顔をしていた。
顔立ちは至って整っているのだが、鼻だけが少し上向いている。
しかしそこが、彼女の最大のチャームポイントの様に思えた。

(コーデュロイちゃん)

(ん?)

(あの子の名前)


71 名前:町医者投稿日:2001/11/14(水) 00:21 ID:???

私達は日の光に照らされる、コーデュロイを、
電車を降りるまで、見守っていた。
彼女は、そんな名前をつけられたことなど知らずに、
すやすやと眠っているだけであった。


72 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/14(水) 00:33 ID:???
まってましたー!
いぇーい!


73 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/14(水) 01:23 ID:???
今回は幸せな日だねぇ・・・
今夜はこんな夢を見たいな。

74 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/14(水) 01:52 ID:???
なんてやわらかな

75 名前:名無し芋投稿日:2001/11/14(水) 18:51 ID:???
ほわほわ〜。

76 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:35 ID:???

*妻と夕刻の団地に立つ*


77 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:35 ID:???

家路につく子ども達の足音が、響いていた。
すっかり影を落とした団地の裏路地に、佇んでいる。

「やーまのおてらーの」

妻は小さな声で、夕焼け小焼けを口ずさんでいた。
気をつけて聞かないと、子ども達の足音に、かき消されそうなくらい、
小さく。か細く。


78 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:35 ID:???

遠くに見える柿の木に、実がなっているのを眺めた。

「あの柿は渋いかね」

「いやいや、甘いよ。きっと甘いよ」

「休もうか?少し」


79 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:35 ID:???

夕日が暮れなずむベンチで、先に口を開いたのは妻の方だった。

「団地って、独特な匂いがするよね」

「ああ…分かる気がする」

「団地臭っていうのかしら」


80 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:36 ID:???

「団地の匂いを嗅ぐと、自分の幼い頃に戻ったような気がするの」

「正しくは、幼い記憶を呼び戻す感じ…かしら?」

「団地の匂いが、好きなわけではなかったわ」

「むしろ、嫌だった。いい匂いではなかったし」

「でも、あの匂いは年を取っても変わることなく、いつでも私をあの頃へ誘ってくれるの」

「私達はいつの間にか…」


81 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:36 ID:???

「年を取ったね」

「そうね」

「これからも…」

「これからも?」

「どうぞよろしく」

「うん。よろしく」


82 名前:町医者投稿日:2001/11/15(木) 17:36 ID:???

団地にもう人影はなかった。
芝生の中に立った電灯には、いつの間にか明かりが灯っている。
私は妻の手を取ると、来た道をゆっくり歩き始める。
妻の歩幅に合わせて、ゆっくりと。
吐く息が、白かった。
もうすぐ、冬がやってくる。


83 名前:名無し芋投稿日:2001/11/15(木) 21:49 ID:???
ほわほわほわ〜。しんみり。

84 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/15(木) 23:19 ID:???
こころ が ふるえたよ

85 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/16(金) 20:04 ID:???
いいね〜 冬の到来は、こんな風なのがいいね

86 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/21(水) 22:26 ID:???
おやすみ〜

87 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:30 ID:???

*夫はごく稀に行方知らずになる*


88 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:30 ID:???

いつもより、朝早く目が覚める。
何事もなかったように、一日を始めてみる。
鍋には大量のソース・エスパニョル。
もう、何日煮続けているだろう?


89 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:30 ID:???

日差しがさしこむ。食卓の上。
今日こそは、ここに、たくさんの皿が並ぶようにと、
心の中に思い描く。
何度も何度も、同じ風景をなぞる。


90 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:31 ID:???

このまま、家にいても、息が詰まりそう。

悪い空気が、家中にいっぱい。

91 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:31 ID:???

一人で歩く、四谷三丁目。
車は混むでもなく、かと言って、空いているわけでもなく、
ゆっくりと流れてゆく。
かすむテールランプ。
外苑通りにぶつかれば、遠くの方で、タワーが見え隠れしている。
最後にタワーに行ったのは、いつだったかな?


92 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:32 ID:???

人のまばらな、駅のホーム。
黒いコートに身を包み、俯く人。
この人は、何を思っているのかな。
この人は、どこに帰るのかな。


93 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:32 ID:???

寂しいのはそう…自分だけじゃない。
自分だけじゃないはずなのに。

帰る足は、速くなる。
早く、家の窓が見える距離に。


94 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:32 ID:???

明かりが点っているのを確認して、いそいでドアを目指した。
たくさんの、思い巡ったことなんて、もう全て帰り道に置いてゆこう。


95 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:33 ID:???

扉を開けて、始めに目に飛びこんできたもの。

扉の向こうで待っていたのは、夫ではなく。

猫だった。


96 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:33 ID:???

「おかえり」

「おかえり」


97 名前:町医者投稿日:2001/11/21(水) 23:34 ID:???

夫は行方知らずになると、必ず土産を買ってくる。
ある時は、北海道のとうきびだった。
タイの銀細工の、ハ町医者

98 名前:町医者投稿日:2001/11/23(金) 19:04 ID:???

「今日のごはんは何にするの?」

「うなぎのパテ」


99 名前:町医者投稿日:2001/11/23(金) 19:05 ID:???

「名前、決めようか?」

優しく微笑むと、猫を撫でるのと、同じように、
夫の指は、私の髪を優しく撫でた。


100 名前:町医者投稿日:2001/11/23(金) 19:09 ID:???

>>97
夫は行方知らずになると、必ず土産を買ってくる。
ある時は、北海道のとうきびだった。
タイの銀細工の、ハンドバックだった時もあった。
悪趣味な、民族人形だった時もあった。


101 名前:町医者投稿日:2001/11/23(金) 19:18 ID:???


>>2-3
*妻は咀嚼をするのが下手糞だ*
>>10-11
*妻とわたくしは時折午前4時の散歩に出かける*
>>18-22
*妻と肉屋の主人の関係*
>>26-33
*妻に届けない手紙を書くことがある*
>>38-44
*いまだに夫は私の事を名前で呼ぶ*
>>48-50
*妻は塀の下を見え隠れする四足歩行に目を見張っている*
>>56-59
*食卓の上で妻の爪を切る*
>>66-71
*遅い午前中の電車に妻と二人で乗る*
>>76-82
*妻と夕刻の団地に立つ*
>>88-100
*夫はごく稀に行方知らずになる*

いつも感想、ありがとうございます。
お話が10個貯まったので、しおりを作りました。
これからも、拙いながらも、言葉を紡いでゆこうと思います。


102 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/23(金) 23:18 ID:???
素晴らしいの一言

次作も楽しみに待っております

103 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/24(土) 00:45 ID:???
何となく読んでるぞ、頑張ってくれ。

104 名前:デリ(´ё`)カシ ★投稿日:2001/11/24(土) 23:43 ID:???
名スレ発見。

105 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/11/25(日) 19:12 ID:???
壊れたの、直ったね。
おあずけで拗ねたよw

106 名前:名無し芋投稿日:2001/11/25(日) 19:31 ID:???
しんみり。

107 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/12/01(土) 13:16 ID:???
12月ですね

108 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/12/04(火) 18:48 ID:???
炬燵にくるまりながらお待ちしております。

109 名前:真っ赤な名無しさん投稿日:2001/12/07(金) 22:06 ID:???
そろそろ毛布にくるまる時間

110 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/12(水) 19:42 ID:???
夕飯時ですね

111 名前:生涯反抗記投稿日:2001/12/13(木) 09:08 ID:???
つぎはまだなのかね?

112 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/16(日) 18:51 ID:???
まだなのですね

113 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:06 ID:???

*新しいのはらを見つけたというので妻と共に立つ*


114 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:07 ID:???

そこは、冬の日差しが、ポカポカと当たる場所であった。

「ちょっと遠いけど、とびらを連れて出かけましょうよ」

お気に入りの路面電車に乗って、
今日からお供が一人増えた。


115 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:08 ID:???

「響きが気に入ったから」

という理由で、我が家に来た猫は「とびら」と名づけられた。
「とびら」もまんざらではないようで、
名前を呼ぶとすぐに足にすりより、ゴロゴロとのどを鳴らす。


116 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:09 ID:???

「とびら」が歩くたびに、乾いた草がシャリシャリと音を立てる。
始めは落ち着かない風であったが、すぐに草の中を走りぬけ始めた。
本来の動物の本能を、取り戻したかのように。



117 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:10 ID:???

走り抜ける「とびら」を見つめて、妻が目を細める。

「四足歩行が走り抜ける姿は、やっぱり美しいね」

「とびら」の少し逆立った毛が、陽の光を透かして、
草の中で、「とびら」はまるで、ふわふわの綿の塊のようだ。


118 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:10 ID:???

「とびら。おいで」

妻が呼ぶが、「とびら」は知らぬ風だ。
私が捕まえに行くと、「とびら」は逃げてゆく。


119 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:10 ID:???

「あら…」

捕まえた「とびら」の毛に、何かの種がついている。

「まあ」

「オナモミの種だね」


120 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:11 ID:???

「オナモミって小さい頃、よくつけあわなかった?」

妻はオナモミの実を見つけると、私のニットに向って投げつけた。

オナモミは、しっかりと私のニットにひっつく。

光の中で、妻が笑った。


121 名前:町医者投稿日:2001/12/17(月) 15:12 ID:???

「こんな風に」

「ずっとあなたにひっついていたいわ」

「オナモミみたいに」

冷たい風が、少しだけ吹いてた。
草の匂いを嗅いで、少しだけここがどこであるかを忘れた。


122 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/17(月) 15:19 ID:???
・・・じーん

123 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/17(月) 19:00 ID:???
ちくしょーめ!
毎回毎回いい話してくれるじゃねーか!

もう今年もあと少しですね。

124 名前:名無し芋投稿日:2001/12/17(月) 19:13 ID:???
ぼろぼろ…(ノД;)

125 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/17(月) 20:34 ID:???
(・∀・)イイ!!

126 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/17(月) 23:15 ID:???
オナモミ・・・ひっつき虫。ほんわか。

127 名前:生涯反抗記投稿日:2001/12/18(火) 09:17 ID:???
おお、催促してみるもんだ。

128 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/23(日) 22:39 ID:???
メリークリスマス!
明日ね。

129 名前:名無し芋投稿日:2001/12/25(火) 00:27 ID:???
町医者さん、メリークリスマスです。
いつも素敵な言葉のタペストリーをありがとうです。

130 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:33 ID:???

*いつもの店で妻と向かい合ってコーヒーを飲んでいる*


131 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:33 ID:???

散歩の帰り、時々寄る店がある。
並木の商店街を裏路地を入るとある、
色が所々はげ落ちたレンガ造りのその店が、
私と妻のお気に入りだ。


132 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:34 ID:???

陽の暮れ始めた、午後の4時。
並木の商店街は、電球でライトアップされていて、
澄んだ空気の中で一層輝いていた。


133 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:34 ID:???

この店のコーヒーが大好きで、
ここにいる時はいつもご機嫌なのだけど、
コーヒーのゆげの向こう側の妻は、どこか不機嫌。


134 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:34 ID:???

店には、窓辺に女性が一人。
色鮮やかなニットキャップを被った青年と、小綺麗な格好をした女の子のカップル。
狭くはないが、決して広くもない店内のお客はそれだけ。

沈黙が流れていた。
聞こえるのは、古いレコードの音だけ。
聞き覚えのある、メロディー。
誰の曲かは、思い出せない。


135 名前:町医者投稿日:2001/12/25(火) 16:35 ID:???

「君が思っている以上に」

「僕は君のことが好きだよ」

外は、雨が降りそうな色に変わっている。
きっと、今夜には雪になるだろう。

今日は、きっと寒くなる。


136 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/25(火) 19:16 ID:???
おお例の二人・・・
雪になるかな、今夜。

137 名前:名無し芋投稿日:2001/12/25(火) 20:21 ID:???
ドキドキ・・・。

138 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/29(土) 01:40 ID:???
うん

139 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/30(日) 13:00 ID:???
今年はありがとう、良いお年を。

140 名前:真冬の名無しさん投稿日:2001/12/31(月) 04:51 ID:???
同じく素敵なお話をありがとう。良いお年を。

141 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/01/02(水) 15:06 ID:???
2002年の二日目です。

142 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/01/04(金) 21:31 ID:???
語り部の方、明けましておめでとうございます。

143 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/01/12(土) 13:04 ID:???
待ち医者

144 名前:名無し芋投稿日:2002/01/14(月) 16:48 ID:???
あけましておめでとうございました。ペコ

145 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/01/29(火) 20:27 ID:???
お日様のにおいがする。

146 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:30 ID:???

*天気のいい日は妻と屋上を眺める*


147 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:31 ID:???

数あるお気に入りの場所の一つに、
ひなびたデパートの屋上である。

晴れていれば、富士山を、遥か遠くに望める気がする。
いや、実際に私たちが見ている山は、富士山ではないかもしれない。
しかし、そう見えていると思いこむことが、
この場所ではきっと重要なのだ。


148 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:31 ID:???

今日もよく晴れていた。
うっすらと雲がかかっているが、遠くに見えている山はきっと富士山だろう。
今日もそう思いたい。

屋上では、たくさんのゲームや遊具の音が入り混じっていて、
一見騒がしいようにも思えたが、
これらの全てが、どことなく古く、少々歪んだ音を出していて、
その得体の知れない音が作り出す不協和音が、
返ってここにいるのを心地良くさせている。


149 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:31 ID:???

「今日はロバ日和」

屋上にあるペットショップには、なぜかロバがいた。
ロバはほとんど動くことなく、
屋上の風景にすっぽりと溶けこんでしまっている。
ロバは少し年老いているような顔をしていたが、
実際には分からない。
どれくらい前からここにいて、どうしてここに連れてこられたのか、
全てが謎に包まれているロバなのだ。
ロバの目には、この屋上が一体どのように映っているのだろう。


150 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:32 ID:???

風が吹いて、妻の黒い髪が揺れた。
妻もやはり、私と同じように、ロバを見つめている。
昼過ぎのデパートの屋上には、ベビーカーを引く母と子だけ。

母子は100円玉を入れて動く汽車に乗っていたようだ。
声がだんだん遠くなり、乗り場に近づくにつれて、また声は近くなる。

ここにあるのは、ただそれだけ。

「富士山だと思いなさい」


151 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:32 ID:???

「今、声をかけたかい?」

「いいえ。ロバを見ていたのよ」

「そうか…」

どこからか、声をかけられた気がしので振り返ってみたが、
やはりここには、私たちと、ベビーカーの母子と、
そして、ロバだけ…。


152 名前:町医者投稿日:2002/02/01(金) 22:33 ID:???

「ロバの声を聞いたよ」

「富士山だと思いなさい、って」


153 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/02(土) 16:52 ID:???
ふんわりですなぁ・・・

154 名前:名無し芋投稿日:2002/02/02(土) 17:08 ID:???
ううう〜む、澄んでいる水のようですなぁ・・・。

155 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/03(日) 19:50 ID:???
デパートの屋上・・行ってないなぁ最近。

156 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/11(月) 17:45 ID:???
オリンピックですねぇ

157 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:48 ID:???

*眩しい太陽に妻が目を細める*


158 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:49 ID:???

私たちの町から郊外へ、一時間近く電車に揺られている。
遠くの方に広がる雑木林から、夕暮れ前の空が覗く。
薄い青から、薄い紫へ。そしてピンクからオレンジへ。
日が暮れる前の空は、微妙なグラデーションを作っている。
輝くオレンジ色の夕日に、妻の眩しそうな顔が照らされて、
瞳の中にオレンジ色の、温かい炎が宿っているように見えた。

「降りましょう」


159 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:49 ID:???

ひなびた駅から少し歩く。
まったく人通りのない道を、でたらめに進んでゆく。

川だ。

冬の川辺に、枯れた草がぎっしりと生えていた。
いや、それは「生えている」というほど、生命に溢れるものではない。
しかし、夕日に照らされる、少し背の高い枯れた草たちは、
なんだか懐かしさの象徴のようで、私たちの心を安心させるものだった。


160 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:50 ID:???

川の周りはほとんど民家はなく、
ぽつりぽつりと寂しそうに、古びた建物が点在している。

「国際つりぼり場」

かろうじて読めるか読めないかの字で、
そう記されているひどく赤茶けた鉄の看板に、
妻は興味を持ったらしい。

「行ってみましょう」

妻の瞳のオレンジ色の光は、やはり温かさに満ちている。


161 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:51 ID:???

本当に本当に小さなつりぼりに、二人で肩を並べて糸を垂らした。
日はもう傾き始めており、だんだんと空気が冷たさを増していく。

釣れたのは、小さな赤い金魚が二匹。

「帰ろうか」


162 名前:町医者投稿日:2002/02/15(金) 17:51 ID:???

日はすっかり陰り、雑木林は木々の形を黒く映し出している。

「金魚鉢、買って帰ろう」
「季節はずれだな…。あるかな」
「サザエさんちにありそうな。あの古い感じの」
「うん」

複雑に交わる木々の形を、妻は見つめていた。
家の食卓に、古い金魚鉢がある風景を、私は思い描いている。


163 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/15(金) 20:21 ID:???
ふむ

164 名前:名無し芋投稿日:2002/02/15(金) 20:35 ID:???
へむへむへむ・・・。

165 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/16(土) 01:31 ID:???
うーんいい終わり方だー

166 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/02/24(日) 21:15 ID:???
妻ー

167 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/03/07(木) 22:20 ID:???
こぶしが咲きましたよ。

168 名前:真冬の名無しさん投稿日:2002/03/19(火) 19:50 ID:???
桜も咲き始めました。

169 名前:町医者投稿日:2002/03/28(木) 22:14 ID:ua27GrAI

*車窓を流れる風景を妻は見ていない*


170 名前:町医者投稿日:2002/03/28(木) 22:15 ID:???

「乗り物に乗っていると、なんだか損をしたような気がするの」

「そこにあるかもしれない、素敵な何かを、見逃しているような気がして」


171 名前:町医者投稿日:2002/03/28(木) 22:15 ID:???

延々と続く田舎道の中を列車は走ってゆく。
車窓を流れる風景は、さほど変わりのないような気がして、
妻には退屈だったのかもしれない。
あるいは、始めから「見えないもの」と思って、妻は諦めていたのだろうか。

車窓から桜並木が見え始めた頃、妻は私の肩に身を預けて眠っていた。
私は一枚の写真を思い出す。


172 名前:町医者投稿日:2002/03/28(木) 22:15 ID:???

田舎の列車の中で、食事を摂る老夫婦の写真。

窓を流れ行く、田園の風景を眺めながら、
仲睦まじい二人の老人が、額をくっつけるように、お昼を食べている。


173 名前:町医者投稿日:2002/03/28(木) 22:16 ID:???

田舎へ行く列車のスピードは、普段乗る列車よりスピードが遅い気がする。
いや、私たちが普段乗っている乗り物のスピードは、きっと速すぎるのだ。

妻の額に、そっと顔を寄せてみる。
こうしていると、私の視線では見えなかった風景が、見えるかもしれない。
こうしていれば、彼女の言う「素敵な何か」を、私が見つける事が出来るかもしれない。

あともう少し、もう少しだけこうしていたら、
妻を起こして、一緒に窓の外を眺めてみよう。
列車のスピードだけでなく、時の流れまでもが緩やかに感じる今なら、
あの老夫婦のように、穏やかな時を過ごせそうな、そんな気がして。


174 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/03/29(金) 19:06 ID:???
うんうん。

175 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/03/29(金) 19:06 ID:???
あれ

176 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/04/10(水) 07:40 ID:???
新年度ですねぇ

177 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 12:59 ID:???

*妻は買い物に出るとなかなか帰ってこない*


178 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:00 ID:???

妻が買い物に行く場所を、私はだいたい把握しているつもりだ。

まず、肉が必要な時は、路面電車に乗って、いつもの肉屋に顔を出す。
店主は相変わらず何も言わないが、今でもたまにおまけが入ってる。


179 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:00 ID:???

その後雑貨屋に寄って、なくなった調味料や物珍しい香辛料を見て回る。
消耗品が必要な際は、ここで薬局に寄るのだが、
妻は薬局で時間を潰すのが得意だ。
全てのコーナーをくまなく見て、いらないものまでついつい買ってきてしまう。
容器のかわいらしいマネキュアや、しみがすぐに消える洗剤。
彼女の戦利品を見るたびに、こんなものがあるのかと関心する。


180 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:00 ID:???

野菜は威勢のいい店員がやっている青果店で買ってくる。

「明日は雨だからー野菜を買うなら今のうちー」

歌を歌うように、店員の口からはぽんぽんと台詞が飛び出してくる。
今はキャベツのおいしい時期だから、きっとキャベツを買ってくるだろう。
それに人参、たまねぎ、ともかく持ちきれなくなるほど、野菜をいっぱい。
妻は買い物が下手な方だと、私は思う。
いつも冷蔵庫に入りきらないくらい、食材を買い込んでしまうのだ。


181 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:01 ID:???

暖かくなって、緑もきれいだから、きっと公園を通って帰ってくるだろう。
道の途中にある大きなマンションの前で、妻は上を見上げる。
そのマンションのベランダは、各部屋に一つ一つ独立してついていて、
左側より右側の方が、ちょっとだけ広くなっているようだった。
下から見上げると凹凸して並んでいるそのベランダが、
妻はいたく気に入っているようだった。


182 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:01 ID:???

公園の脇には団地が立ち並んでいて、団地の壁は全て緑色に塗られていた。
布団や洗濯ものが揺れていて、緑色にものすごく映える。
団地の庭はきれいに芝が整理されていて、緑が光っている。
風に吹かれ、春の色に包まれる団地を妻は見つめながら、
きっと肉屋のくれたおまけをつまんでいるだろう。


183 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:01 ID:???

公園には、この街に来て初めてデートした温室。
古くてちょっと薄汚れた白い建物には、外までぎっりし蔦が絡まっている。
中で飛ぶ熱帯の鳥の影を、見つける事が出来ただろうか。

公園を抜けて住宅街に差し掛かると、
駄菓子屋の前では学校の終わった近所の子どもたちが集まっている。
その姿を横目に見ながら、妻は重い荷物を持って歩く。

線路が見えてくれば、家まではあと少し。
途中にある砂利の駐車場には、なずなの花が今ごろたくさん咲いているだろう。
今度はとびらを連れて、駐車場まで遊びに来よう。


184 名前:町医者投稿日:2002/04/12(金) 13:02 ID:???

あと何本、電車が通り過ぎれば妻は帰ってくるだろうか。
電車が通る音を何本か聞いて、妻がどの辺りを歩いているか想像する。
きっと、もうすぐそこに違いない。

「ただいま」

「また買いすぎちゃった」

これもいつもの台詞。


185 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/04/12(金) 16:15 ID:???
じゃあ私も行ってきます。

186 名前:‥ { がんばってくださいな投稿日:2002/04/14(日) 17:32 ID:???
最初の頃からROMってましたが、初レス。

187 名前:名無し芋投稿日:2002/04/16(火) 20:35 ID:???
久々読んだ。うむうむ。

188 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/05/02(木) 09:06 ID:???
GWですよー

189 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/05/19(日) 20:01 ID:???
雨降りです

190 名前:名無し芋投稿日:2002/05/28(火) 20:19 ID:???
もうすぐ5月も終わりですよ。

191 名前:桜咲く名無しさん投稿日:2002/05/28(火) 22:54 ID:yhzc16B.
あげ〜

192 名前:梅雨だく名無しさん投稿日:2002/06/28(金) 21:53 ID:???
・゚・(ノД`)・゚・。
ここは残ってた。

193 名前:梅雨だく名無しさん投稿日:2002/07/23(火) 06:10 ID:Gog8AAUs
夏だ。

194 名前:混沌スープ投稿日:2002/08/02(金) 09:44 ID:???
眠る前に薄目を開けて
睫毛の隙間から天井を覗き見

195 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:36 ID:???

*夫の膝の上で・36度の妄想*


196 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:36 ID:???

電線の張り巡らされた、雑多な青い空の下。

路肩に、昔草原で見た、
小さな花の咲いているような、
ノスタルジックな小径。

綺麗に手入れされた、藤棚の影を、
背中に焼き付ける太陽の下。

蜃気楼が生まれて、甘い匂いのする、
アスファルトの上。


197 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:37 ID:???

赤い金魚の尾のように揺れる、
幼子の浴衣の帯と灯篭。
夏祭りのお囃子の音。

昔の住宅の臭いの染み付いた、
古い団地の小さな部屋の屋根の下。

裸電球の、ほの明るかった光が、
目蓋の中で、ゆっくり残像になるくらいのスピードで。
夫の爪弾くギターに耳を傾けて、
揺り篭の中に眠る、子どもの様な気持ちになる。


198 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:37 ID:???


縁側で、眩しい夏の陽射しを体に感じながら、
夫の膝の上で、今はない風景を、
繰り返し繰り返し、私は想像する。

そして、今はここにはない風景を、
睫毛の奥で、ゆっくり噛みしめながら、
私は妄想する。

こんなに暑いくらいなら、
いっそ溶けてしまった方がいい。
溶けてしまうくらいなら、
彼の養分になればいい。


199 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:37 ID:???

この夏の気温よりも、
熱く湿気を孕んだ、その唇と舌で。
私を転がして、味わって欲しい。
形が分からなくなるくらいまで、
噛み砕いて欲しい。
そしてお腹の底へ、
ゆっくり、ゆっくりと沈んで行くのだ。

きっとこの人の臓器は、
青い海の珊瑚礁みたいに、
綺麗なピンク色をしているだろう。
綺麗な珊瑚礁色の臓器の中に、
私は吸収されていく。

そして私は、彼の血の中に、
深く溶けて混ざって、
そして明日からの彼を作る、
全ての要素になるのだ。


200 名前:町医者投稿日:2002/08/10(土) 03:38 ID:???

目を瞑ったまま、夫の顔を思い浮かべる。
きっと眼鏡の奥の瞳は、
今も優しい瞳をしているに違いない。

あの静かな団地で聴いた、
ギターの音が聞こえればいいのに。
そうすれば、私は、
安らかな気持ちで、身を任せられるのに。


201 名前:名無しさん@ビキニ投稿日:2002/08/13(火) 20:33 ID:???
うん。

202 名前:名無しさん@ビキニ投稿日:2002/08/13(火) 22:15 ID:???
お帰りなさい。

203 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:49 ID:???

*妻と私の或る会話*


204 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:49 ID:???

「退屈が、怖いわけじゃない?」

「退屈を食い潰してしまう事が、怖いんだ」


205 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:49 ID:???


「退屈をいかに潰すかが、問題ではない」

「私たちは、そこにある、
 そう、きっと刹那を求めている」


206 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:50 ID:???

「[不変である事]は、
 偉大な事であるかもしれないけれど、
 楽しくて、素敵な事ではないよ」

「だってそうでしょう?」

「発掘された、何億円もするダイヤだって、
 不変ではあるけれど、
 ショーケースの中で、
 ただ、大事に大事にされているだけ」


207 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:50 ID:???

「身につけるものを、
 持たないダイヤなんて、
 不幸以外の何者でもない」

「そう、そうやって、
 退屈を食い潰しているだけに、過ぎないよ」


208 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:51 ID:???

「それなら、ボロボロに傷つくまで、
 身につけられる、ガラス玉の方が、
 よっぽど素敵」

「だからね、たまに飽きてしまうの」

「決して誰かを、
 憎んだり嫌ったりする事のない、
 この平和な空間が、窮屈なわけではないけれど」

「食い潰しているんじゃないかって、
 錯覚してしまう」


209 名前:町医者投稿日:2002/09/10(火) 22:51 ID:???

「たから、たまには、
 素敵な刹那を下さい」

「刹那が欲しい?」

「刹那が欲しい」


210 名前:名無しさん@ビキニ投稿日:2002/09/11(水) 03:37 ID:???
ん。
そう

211 名前:名無しさん@ビキニ投稿日:2002/09/11(水) 03:37 ID:???
ふふw

212 名前:名無しさん@ビキニ投稿日:2002/09/11(水) 20:46 ID:???
うん。

213 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:33 ID:???

*妻と宛てのない旅に出る*

214 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:33 ID:???

「旅」と言っても、ほんの些細なものだ。
ただただ、目的もなく、歩く。
自分の帰る方向さえ解っていれば、それでいい。
それを「旅」を呼ぶのは、おかしい事だろうか。

215 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:33 ID:???

時間は、もうすぐ朝になろうかという頃。
空はなんとも、称え難い色をしている。

住宅街の一角には、
たくさんの、ヨウシュヤマゴボウの茂る空き地があった。
そこだけ、ぽっかりと空いてしまった空間は、
周りと逸した違和感を抱えながら、
朝方の闇の中にひっそりと佇んでいる。
夏に過ぎ去った台風のせいで、
ヨウシュヤマゴボウのほとんどは枯れ、なぎ倒されていたが、
所々に赤紫色の実が、小さく息づいている。

216 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:34 ID:???

空き地には、すっかり薄くなってしまった赤字で、
「立ち入り禁止」と書かれた看板が立っていて、
その看板が土地の権利を主張していた。

「小さい頃、ヨウシュヤマゴボウで染物しなかった?」

「ヨウシュヤマゴボウには、毒があるんだよ」

空き地に茂る有毒性植物は、
まったく意味がなく、また意味を持たなかった。
いくらヨウシュヤマゴボウに毒があったって、
彼らはその土地を、自分達のために獲得する事は出来ない。
立ち入り禁止の看板が、権利を主張する限り、
その土地は誰かの物で、彼らの物ではない。
それでも彼らは、そこでひっそりと生きていく。

217 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:34 ID:???

自分の生きる権利を、他人に委ねられるという事は、
一体どういう事なのだろうか。
人間に当てはめて見ると、空しい事この上に違いない。
第一生きていくのに、権利だなんだと持ち出されてるなんて、
それだけでも、つくづく生きづらいというものだ。

朝もやのように、少々もやのかかった頭の中で、
考え事をする。
妻は、私が何かを考えているのを察したのか、
何もしゃべらない。

218 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:35 ID:???

住宅地を抜けて、どれくらい歩いたか分からない。
気づくと私たちは、繁華街に出ていた。
もう朝も近いというのに、
所々にはまだネオンが点いていたが、
疲れてしまった人々しかいない街は、静かだった。

離れないように握った手の平は、
しっとりと汗をかいている。
空気は湿気を充分に含んでいて、
体の輪郭をなぞる様に、湿気がまとわりついてくる。

219 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:35 ID:???

「蒸し暑いね」

妻の声は柔らかかった。

夏の朝のように、頭上で鳩が鳴いている。

「そろそろ戻ろうか」

もう一度、手をとり直してそう呟いた。

220 名前:町医者投稿日:02/10/16 00:36 ID:???

ネオンの光が、まだまばらに点いている、
夜と朝の間の静かな繁華街。
有毒性植物の赤紫の実がなる、
荒れ果てた空き地。
そろそろ飛び立とうとする鳩の群れと、
疲れてしまった人々の群れ。

人生はきっと、そんな空騒ぎの連続。
その間に出来た歪みのような窪んだ道を、
私たちは、旅していくのだ。

221 名前:香りまつたけ味名無し。投稿日:02/10/16 21:10 ID:???
しみる・・・

222 名前:草太投稿日:02/10/17 01:56 ID:???
ブランコを押してもらう手は
冷たく感じるのか
温かく感じるのか

223 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:29 ID:???

*妻の髪から潮の匂いが流れてくる*

224 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:30 ID:???

高速道路を走っていると、
その道の真っ直ぐさに、目が眩む事がある。
走っても走っても、オレンジ色の電灯は、
ずっと先まで同じ感覚でならんでいるし、
遠くの方で見える、山の影が何重にも重なっている姿は、
切り絵のように形だけが浮き上がっていて、
べったりと空に貼りついているようだ。
それはまるで、回り灯籠に貼り付けられている絵のようで、
このまま走って、目的地に着くのかというより、
本当に道を走っているのかが、疑わしい。

225 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:30 ID:???

道路に規則正しくつけられた溝の上を走る時以外、
車内に音は存在しなかった。
静寂の中で、大して色彩を持たない夜の高速道路を走っていると、
孤独という物は、こういうものなのかと感じる時がある。

海が見たいと言ったのは、私の方だ。
助手席にいる妻の胸は、規則的に上下していて、
今はその動きだけが、私の中の孤独を振り払う。

226 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:30 ID:???

海の水は、もう冷たかった。
水平線も何も見えない。

明かりすら灯らない、この海岸に二人でいると、
世界でたった二人だけになってしまったかのような感覚に陥る。

砂浜の砂は柔らかく、靴を履いたままだと歩きづらかった。
妻は砂が靴に入るのが嫌だと、裸足になって駆け出す。
闇の中へ吸いこまれないように、私は妻を追いかける。

227 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:31 ID:???

妻の体を掴まえた時には、私達はもうすっかり波の中だった。
どうして妻が海の方に、走ったのかは分からない。
このまま水の中沈めば、きっと孤独な静寂が待ち構えているのだろう。

「どこにも行かないよ」

228 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:31 ID:???

波は煩いくらい、鼓膜を震わせているのに、
切り取られたように、その声ははっきりと私の耳に届いた。
そしてそう呟かれた時、自分の胸の内を見透かされたようで、
私は急に恥ずかしくなった。

時折遠くの方で、キラリと灯台が光る。
本当に世界でたった二人になってしまった時に、
果たして私たちは、光の見える方に助けを求めるのだろうか。

229 名前:町医者投稿日:02/10/18 00:32 ID:???

>>113-121
*新しいのはらを見つけたというので妻と共に立つ*
>>130-135
*いつもの店で妻と向かい合ってコーヒーを飲んでいる*
>>146-152
*天気のいい日は妻と屋上を眺める*
>>157-162
*眩しい太陽に妻が目を細める*
>>169-173
*車窓を流れる風景を妻は見ていない*
>>177-184
*妻は買い物に出るとなかなか帰ってこない*
>>195-200
*夫の膝の上で・36度の妄想*
>>203-209
*妻と私の或る会話*
>>213-220
*妻と宛てのない旅に出る*
>>223-228
*妻の髪から潮の匂いが流れてくる*

前回のしおり>>101

お話が10個になったので、またしおりを作りました。
このスレッドも、もう一周年です。
読んでくれている皆様、いつもありがとう。

230 名前:香りまつたけ味名無し。投稿日:02/10/18 01:20 ID:???
こちらこそ。

231 名前:香りまつたけ味名無し。投稿日:02/10/19 19:38 ID:???
楽しんでいます。

232 名前:香りまつたけ味名無し。投稿日:02/11/04 09:28 ID:???
( ⌒ー^)マターリ

233 名前:香りまつたけ味名無し。投稿日:02/12/01 11:40 ID:???
師走ですねぇ

234 名前:名も無き鍋奉行投稿日:02/12/09 02:59 ID:???
関東では初雪です・・・

235 名前:名も無き鍋奉行投稿日:02/12/31 00:20 ID:HHVAGuos
大晦日も雪だ!

236 名前:名も無き鍋奉行投稿日:03/03/14 16:50 ID:???
沈丁花の匂いがする


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